1952年11月、木下恵介『カルメン純情す』松竹

  22, 2016 10:20
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どうせ日本はままならぬ。へなちょこ野郎はけっとばせ。

音楽:ジョルジュ・ビゼー 脚本:木下恵介 撮影:楠田浩之 美術:浜田辰雄 録音:大野久男 照明:豊島良三 音楽:黛敏郎・木下忠司 振付:三橋蓮子

木下先生、画面がななめってます! 芸術が爆発してます! やりたい放題やってます! 前衛芸術っていうか、もはやパンクかもしれない。

日本のミュージカル映画には「リリィ・カルメン」さんという空前絶後の魅力的なキャラクターがおるわけでございまして、ふらんすへ行きたしと思へども、ふらんすはあまりに遠く、わだつみの声はかそけく響いて、憧れと諷刺に満ち満ちております。序盤から笑いが止まらなくて腹いたいです。しまったこんなに面白いと思わなかった。

独立ニッポン最初の普通選挙が行われる頃。女権運動家が頑張っていた頃。再軍備に反対する婦人行進が起きていた頃。団地はすでに存在したもよう。

今回はモノクロ撮影ですが、若い女たちがすごくファッショナブルで体格も良く、海外女優に負けておりません。お相手役も木下好みの(と敢えて言う)美男です。レースのブラウスがお似合いです。

リリィさんのマシンガントークが楽しいトーキー作品ですけれども、無声時代のコメディ映画を思わせるところもあって、場面転換は斬新かつ手際よく、まことに見事な作品ですが、なぜ斜め!? ファンタジックねェ。

あらためて思うと『陸軍』の完成度の高さに較べて『善魔』は幻想的な演出を試していた部分があり、監督は「戦後」の自由を満喫なさっていたのでしょう。劇中劇の『カルメン』もなかなか見せます。

脇固めの中年女優たちのコメディ演技がすばらしく、三好栄子は地味な人だと思っていたのがビックリで、ヒロインたちの友情は今日も微笑ましく、たいやき買って来てねェ~~。(どこへ着地するんだこの話)

一か所だけ諷刺ではなく直截な政治批判となっている台詞があり、東山千栄子は『破れ太鼓』で戦争が終わった嬉しさをほのぼのと表現する役でしたが、今回は監督の主張を炸裂させる役となりました。

音楽は、たぶん雑音みたいな前衛的なのが黛で、ジンタみたいなカルメン純情のテーマが木下。冴えてます。

木下作品は、他の監督に見られる「女はなに考えてるのか分からなくて怖いが、それだけに神秘的な魅力を感じる」という男の夢もロマンもへったくれもないところが爽快なわけでございまして、浅はかな女心を手に取るように分かってるのです。それを利用しようとする男の独善性もよく分かってるのです。どちらにも愛嬌を感じてるんだけれども、どちらにも距離感があるのです。あったかいんだけど、ドライなのです。やや唐突な幕切れも、本気でヒロインを応援してるのか、観客をなめてるのか。

それにつけてもタカラジェンヌは綺麗ですねェ……。


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