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1979年5月、市川崑『病院坂の首縊りの家』東宝

まァ、あったものは壊れていくよ。

原作:横溝正史 脚本:日高真也・久里子亭 撮影:長谷川清 美術:阿久根巌 録音:矢野口文雄 照明:佐藤幸次郎 音楽:田辺信一 ジャズ演奏:江草啓介カルテット+伏見哲夫

シリーズ5作目、最終章。冒頭に登場する年輩の俳優さんは誰だったかなと思ったところ、金田一さんのご友人で、横溝さんとおっしゃるのでした。

昭和二十六年。まだ火鉢を使っていた時代。でも1950年代に入ってるわけで、だいぶ復興も進んだもよう。全篇に渡ってホットなジャズが聴けます。金田一さんだけ時代を超越しちゃってますが、これはまァ仕方がない。キャストのトップが佐久間良子で、金田一さんは「トリ」でした。

シリーズ最高的な風情あるロケハンを背景に、コメディ調に始めて、急に落差の大きな伝奇的世界に引きずり込む語り口の魅力も、シリーズ最高かもしれません。兵隊靴は今回も登場。捜査本部の張り紙が落ちるのはお約束。脇役たちが「金田一一座」とでも申しましょうか、いつものメンバー・いつもの演技で、安心感に満ちて、たいへん楽しいです。

市松人形のような黒髪と大きな目が印象的な桜田淳子(1958年生まれ・公開時21歳)が理想的な謎の美少女で、ささやくような個性的な演技から、観客の神経をさかなでしてくれるハイテンション演技まで、幅広く披露してくれています。すこし低めの張りのある声がいいです。女優さん専業じゃなかったはずだけどすごいです。(20歳すぎたら少女じゃないはずだけど、美女っていうと佐久間のほうだから仕方ないです)

金田一だけでは調査の手がまわらないところを草刈正雄が担当しますが、こちらの肩の力の抜けた個性的な演技(と美貌)にも眼が吸いつけられちゃいます。

1939年生まれ・40歳の佐久間良子は、なおふっくらした美貌と、ひと筋の髪の乱れが魅力的。事件そのものは凄惨、かつ背景事情が陰惨で、「耽美的」とは言えるでしょうが、若い女性が御覧になるものじゃないような気も致します。

市川監督は、この石坂金田一を撮るにあたって、それまで勧善懲悪的だった探偵映画に犯人の心理描写を取り入れたそうで、シリーズを通して事件が昭和二十年代に起きるので、戦前の不自由さによる女性の悲劇が犯罪の動機を形成する重要モチーフとなっており、はからずも「1970年代には、まだ物語作りが『女性らしさ』を前提にしていた」という時代の証言になってしまっているとも言えるかと思います。

そのいっぽうで、中井貴恵に学問する女性を演じさせており、じゃっかんの揶揄的目線も感じられますが、楽しい場面の一つではあります。

他の監督による作品も含めて、金田一シリーズは、そういうわけで中年女性が主役級の演技ができた貴重な作品集で、それが流行した1970年代というのは、中年女性が活躍できた時代だったともいえそうですが、やがて来る女の時代は若さの時代でもありましたね。(もちろん継続中)



本年は拙文におつきあい頂きまして真にありがとうございました。良いお年をお迎えください。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。