Misha's Casket

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1937年8月、山中貞雄『人情紙風船』東宝

出雲の神様に縄張りァございませんからね。

脚本:三村伸太郎 撮影:三村明 録音:安恵重遠 音楽:太田忠 美術考証:岩田専太郎

二.二六事件の翌年に撮られた時代劇。実際の世相とも重なる明日が見えない貧乏暮らしを完全再現する手法はかなり贅沢かつ高踏的。ときに監督、二十八歳。

町人パワー炸裂する長屋描写は大掛かりなセットを活かしたスーパーリアリズム。ちょっと珍しい角度から狙った、ドキッとするような構図がいっぱいです。

美術考証が入ってる通りで、生活用品がなにげなく置いてある様子に規格外れの美意識が感じられます。

物語は、髪結いのくせに本職をまじめにやらずに盆ござ敷いてる奴と、その長屋仲間の素浪人をダブルヒーロー(?)として、仇討ちもチャンバラもなく、のんびりめに進行する日常ドラマですが、わざとカメラを人物から外してみたり、板戸越しに喧嘩の声だけ響かせてみたり、急な雨に降られて行き交う人々を遠くから撮ってみたり。

映画ならではの斬新な演出の数々が観られます。お国のためとはいえ、惜しい人をなくしました。なお画質は例外的なほど良いようです。

観客におもねらない結末のつけ方には、監督の若さに相応しい冷たい知性を感じますけれども、それでもこういう話は観客に対して「あなたならどうする?」という問いかけが含まれているわけで、やっぱり良心に訴えるものと言っていいのだろうと思われます。

なお歌舞伎役者と宝塚女優という美男美女による眼に優しいロマンスも観られます。あの二人じゃ、その後どうなったかなァ。



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