1949年3月、木下恵介『お嬢さん乾杯』松竹

  10, 2017 10:31
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愛してるなんて、そんなお上品なことじゃ惚れたにゃなりませんよ。

脚本:新藤兼人 撮影:楠田浩之 音楽:木下忠司 照明:豊島良二 美術:小島基司 賛助:八州自動車株式会社 特別出演:大日本拳闘協会 特別出演:市村襄次夫妻(ガルデニアサークル)・貝谷八百子バレー団 主題歌:灰田勝彦

わずか1時間29分ながら、最高の心の贅沢。話法の熟練ぶりに加え、戦争が終わった喜びに満ちております。

「Fantaisie-Impromptu」(ショパン、1834年)を始め、西洋音楽が鳴り続け、なかなかに出来のよいクラシックバレエも拝見できます。1949年の日本にこれがあったかと思うと、戦中の彼女たちの苦労が偲ばれます。

戦後は身分差がなくなったわけで、上流階級の暮らしぶりが映画を通じて庶民に開放されたと思われ、安城家のお嬢さんが俺の手の届くところに降りてきたんだけどどうしよう!? ってなお話。

男の独善が湛える愛嬌と悲哀。夜に生きる女たちの明るさ。打算と純情をこき混ぜて揺れ動くお嬢様の気骨。一歩はなれたところからドライな眼で見つめつつ、若い男女を慈しみ、温かく包み込む木下流人間愛にあふれ、全篇これ微笑ましいったらありゃしません。

天上の美女・原節子が面を伏せて、しおらしい大和撫子を演じているのがかえって印象的。能面のように表情豊かな美女ってふつう言わないんですが、この人はどうしても質の良い能面に似ているのです。「シオリ」の型に似た美しい仕草も拝見できます。

BSA(英国製オートバイ)が疾走するシーンが無駄に長く、撮影技法としても印象的であるとともに、若い観客の憧れを呼んだことと思われます。自動車工場のロゴはアメリカンでカッコいいです。なお、監督はどーしても佐田啓二がお気に入りのようです。

ちょっとだけ登場する子役たちもすっごく可愛いです。「おじちゃまおいくつでしゅか?」 ついでに婿養子の鬱屈ぶりも、あまさず描いております。

監督自身の弟さんである忠司との緊密な連携プレーによるミュージカルの一種でもあって、全篇を通して音楽の使われ方は絶品です。

新藤脚本は理知的でありつつも細やかな気づかいに満ちて、木下の持ち味とは絶妙のコンビのような気が致します。

花も嵐も踏み越えて、監督に乾杯。


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