1950年4月、黒澤明『醜聞』松竹

  11, 2017 10:30
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おい、オヤジ! 人生は涙ぐましいな!

脚本:黒澤明・菊島隆三 撮影:生方敏夫 調音:大村三郎 美術:濱田辰雄 照明:加藤政雄 音楽:早坂文雄

黒沢・三船が大都会の仮面を暴く鮮烈巨弾!(公開当時のポスターより)

米軍憲兵司令部による道路標識が出ていた頃。「写真版と活字」が良くも悪くも生き生きしていた頃。カメラはライカ。オートバイはキャブトン。人々は当時から「来年から本気出す」的なことを言っていました。

はらりと落ちた前髪と頬の笑み皺が素敵な三船敏郎30歳は、いままで見た中じゃ最高に自然体な演技だと思います。いろいろやってここまで来ました的な。このあと『羅生門』を撮ることを考えると、これが現代劇的敏郎の完成形なのでしょう。生来の人柄の良さがにじみ出ております。このまままっすぐ『天国と地獄』へ。

山口淑子は原節子とちがって醜聞に立ち向かうという雰囲気ではなく、先行きの不安感を醸し出し、それが映画を面白くしていると思います。うまく出来てます。彼女の高すぎない美声を活かしたミュージカル映画の一種でもあります。

というわけで美男美女ロマンスかと思ったら志村さんが面白すぎました。体当たり的な演技の凄みからいうと、『生きる』もいいけど『スキャンダル』もね。(昔のカレーのCMふうに)

志村・三船の立ち位置が『酔いどれ天使』と裏表のような関係があって、さらに千石規子が三船の古女房的シングルマザー設定となり、『静かなる決闘』の恨みを晴らしたというか。東宝、大映、松竹と三社使い倒して三部作ここに完成的な。『生きる』も含めて、汚濁した水たまり(汚染された血液)という共通イメージが印象的ですね。

珍しいほど切り替えの少ないカメラでじっくり捉えますが、序盤からテンポは早く、しかも「この話、ちゃんと落ちるのか?」と心配になるような、あまりにも日常的な見通しの不透明感があって、かえって眼が離せません。

なお、公開当時のポスターは、ちょっと煽りすぎで、印象ちがっちゃってます。そんなサスペンスじゃないです。

裁判劇ではあるんだけど、黒澤得意の諷刺喜劇でもあり、人情劇でもあり、悲劇でもあり、ある意味で男のロマンでもある。きみは星を見たか。

もとより黒澤作品は常にいろんな意味で男のロマン溢れてるわけでございまして、自己憐憫的な男の独善性に容認的・共感的であるとともに、少女の神秘的な能力に夢を持ってるわけなのです。確かに木下恵介とは真逆かもしれません。

ところでこの話、片岡博士が志の高い有能な法律家だったからこそ、法律家としての責任感を問うという議題が加わったわけで、うまく出来てるのです。

なお、裁判は、いい宣伝になるそうです。


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