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1994年6月、ローレンス・カスダン『ワイアット・アープ』

勇気のある奴は前へ出ろ。全員道連れだ。

人海戦術的リアル西部劇。ワイアット・アープさんがワイアット・アープさんになるまでを真正面から描いた一代記。堂々の2枚組み。

かつて米国において、銃とは無法の象徴であり、法の象徴でもあったのです。いやたぶん今でも。

町が若すぎて葬式を出すのが初めてだというほどの西部の黎明期に、人々は血の絆だけを信じて身を寄せ合わざるを得ず、争いごとを解決する方法は、その血を流すことだけだったのでした。だからこそ、よその家系から嫁に来て、自己主張する女たちもいたのです。

演出・編集は最大公約数的で、黒澤さんや市川さんや篠田さんのような変わったことをしていないので、まず落ち着いて観ることができます。肺病持ちの歯医者が出てくるまでが長いですが、序盤から話の展開は早く、意外なほど退屈させません。

古い『OK牧場の決闘』は、まさかのドク・ホリディ目線の二重ロマンスだったので唖然としちゃったんですが、こちらは実家の様子から独立後の兄弟たちの様子まで、余さず取り込んだドキュメンタリータッチ。決闘の解釈もリアルタッチ。気骨のある監督さんとお見受けいたします。なお、洋画のスタッフは(カタカナ書きにすると長たらしいので)専門サイトにおまかせします。

ケヴィン・コスナーさんの映画は、アメリカの良いところを描くという主題が自覚的にあって好きなのです。良いところを描くためには悪いところも描いて対比させつつ、良いところに潜む独善性の罪深さをも自覚している。もう、男の意地や義理はいや。

砂っぽくて埃っぽくて男どもが汗くさくてどーしよーーもない街の中で、西欧の流行に沿って淑女らしく装う女性たちがいじらしいです。男たちも帽子とハイカラーで知的に装っているんだけれども、腹に匕首ならぬ、腰に拳銃、脇に散弾銃を呑んでいるわけでした。街路にあふれるのは牛牛牛牛牛。馬馬馬馬馬。

映画だから臭いだけは伝わりませんが、撮影現場はワイルドだったと思います。日本人が観るからカッコいいですけれども、アメリカ東部の上流階級にしてみると、西部劇ってのは薄汚くて下品な暴力映画なのかもしれません。

(だからこそ若い人が憧れるのです)

銃身の長い大型拳銃がいっぱい出てくるので眼に楽しいです。発射音を強調してあるようで、三尺玉が開花したかのような轟音が響き渡っております。

個人的にステイシー・キーチが好きなんですが、デニス・クェイドのドク・ホリデイは、いかにもインテリが道を踏み外して立ち直りきれないという風情がよいです。病気は早めに治してほしいですけども。

終幕まで正統派伝記映画として一貫させつつ、伝説が形成されていく様子をも見せるという、アメリカ映画産業そのものの成り立ちを自戒しているような要素もあって、1990年代(=20世紀末)らしい一本だと思います。



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。