1943年7月、木下恵介『花咲く港』松竹

  16, 2017 10:30
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潜水艦におどかされてしりごみしたとあっちゃ、日本の漁師の名折れじゃ。

原作:菊田一夫(情報局委嘱国民演劇脚本) 脚色:津路嘉郎 撮影:楠田浩之 美術:本木勇 音楽:安部盛 演奏:大東亜交響楽団 編集:杉原よし 照明:長島猛 大道具:矢萩太郎 小道具:島田信男

名優ぞろいの名コメディ。完成度マックスの上を行く、初監督作品。東山千栄子が大活躍。色男趣味もすでに確立していたもよう。

九州の小島。風の強い海浜、島内唯一と思われる旅館「かもめ館」の外観など、ロケハン絶好調で、さらに自転車や馬車の走行、短艇漕ぎ、造船風景、船上の会話などなどたいへん手間をかけて撮影されており、戦況逼迫・国民生活窮乏が深刻化する世相をものともしない力作、かつ軽やかな味わいは、逆説的に負けじ魂の表現になっているようでもあります。

技法はすでに成立していたものを極限まで磨きぬいたというべきで、実験的・特撮的な技法を駆使した黒澤作品(『姿三四郎』)とは確かに好対照。

黒澤の荒削りさに較べて、役者の持ち味を活かした群像心理描写は早くも木下節の真骨頂ここにありで、このスタート地点の違いもいい対象のような気が致します。

男と女、人生の出だしと転換期など、主題的にも真逆なわけですが、だからこそ、ちょうど補完的な位置関係にあるわけで、これはやっぱり両方楽しく拝見すればいいことだろうと思われます。

せまい町へ新参者がやって来て……。来訪の前に町の人々の様子を描いておくところが味噌。

開戦当時の様子を描いているので、既に諷刺とも言えるんですけれども、当時の庶民がこのように言った気持ちに嘘はなかったと。

戦中映画は軍隊の活躍を描きつつも映画人の本音がしのばせてあるものですが、木下は『陸軍』にしても本作にしても、庶民の心情に寄り添う目線で描いていると思います。


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