Misha's Casket

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1936年10月、溝口健二『祇園の姉妹』第一映画

男はんていう男はん、みんなあてらの敵や。

原作:溝口健二 脚色:依田義賢 撮影:三木稔 録音:加瀬久

充実した1時間10分。オープニングBGMがまさかのビッグバンドジャズで、のっけからワンシーン・ワンカット。溝口健二恐るべし。

ドキュメンタリーと見紛う名優ぞろい、華やかな京都の社交界の裏側を描く超絶リアリズム。わざと同じ構図をくりかえすとか、自動車の車内から「カーブを曲がる」という表現(車窓外の合成画の工夫)も面白いものだと思います。

昭和11年。京町屋と和服の取り合わせに時おり混ざる洋装、紙巻煙草、瓶ビールが印象的。今から観ると時代劇みたいですが、当時としては当世劇なのです。女のシュミーズ姿や着替えの様子は当時の観客の眼をみはらせたのかもしれません。共布のベルトつきのワンピースが魅力的。

木綿屋がつぶれて人絹(レーヨン)が流行るという世相が取り入れられており、2.26事件の引き金の一つともなった不況が背景にあるのかもしれません。

あの事件は映画『動乱』では美化されておりましたが、じつは青年将校が実権を握ろうということで、必ずしも国民の支持は高くなかったらしく、ことに京都は帝を東京へ送り出してしまった後、虚無感と文化的矜持のない交ぜの中にあったのだろうと思われます。

そういう退廃というか、爛熟というか、気配の中で、女学校出の舌鋒が冴える。戦後は古典を撮った溝口、かえって戦前は若い人の才気に一縷の希望を見ていたようです。

山田五十鈴は19歳という実年齢そのままに、キラキラと輝きながら、祇園というよりは鉄火芸者か馬賊芸者の勢いで、祇園と女の本音を暴露しちゃいますが、……溝口は表立っては何も言わなかったにちがいないお姉さまの仇を取った思いだったのでしょう。

DVD特典の新藤兼人インタビューによれば、この写実志向によって日本映画の歴史に画期を成した記念碑的作品だそうです。

祇園にカメラを持ち込んで、会話の写実性を高めるために撮影現場で台本を書き直すということまでしたそうで、リアル過ぎて祇園では評判が悪かったそうです。ほんまのこと言いないな。京都らしい。

男たちの独善、世慣れた姉、硬質な妹。いまふうにいうと六畳二間のアパート暮らしするホステスさん達。一見すると古いですが、自活する女性たちを描いているわけで、現代人の心にもまっすぐ響くテーマを持っていると思います。この後、いったん上映しにくい時代を経験したのだったでしょう。


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