1960年9月、黒澤明『悪い奴ほどよく眠る』東宝・黒澤プロ

  27, 2017 11:04
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あくまでもあなたを信頼しているから、よろしく。

脚本:小國英雄・久坂栄二郎・黒澤明・菊島隆三・橋本忍 撮影:逢澤譲 美術:村木興四郎 録音:矢野口文雄・下永尚 照明:猪原一郎 音楽:佐藤勝 監督助手:森谷司郎

昭和三十五年度芸術祭参加作品。スタッフおよびキャストの勢ぞろい感。ロケハンは今日も絶好調。いつにも増して長回しによる視線移動の妙味の中に短いショットを差し挟む編集の冴えを見せ、同じ構図をくりかえすのも印象的。照明さんも絶好調。

特撮じゃないのです。現実に存在するものをフル活用して、ちょっと黒澤作品の中でも珍しいくらい美術的な画を作り上げております。

興味深いのは、ものすごいメンバーがそろった脚本が、俳優にしゃべらせることじゃなくて、無言の芝居を重視してることなのです。会話そのものはギリギリまで削ぎ落として、たいへんナチュラルに仕上げました。やるなァ。

ワーグナー、文金高島田、金屏風、シャンパン。高度成長期らしく始まる役人残酷あるある内幕物語。ウィスキーはホワイトホース。スーツはスリーピース、カフスはダブル。シガレットはケースに入れるのが紳士のたしなみだった頃。

序盤における記者団の様子は、いかにもリアリズムではないわけで、編集の手際はいいけど演出として微妙だなァと思いましたら、地謡の一種なのだそうでした。模倣する時は陳腐にならないように気をつけましょう。

『羅生門』から十年、誰だこの美中年……としばらくぼんやり眺めて森雅之と気づいた時の衝撃。

三津田健もいい感じに老けて、藤田進は特別出演状態で貫禄を見せ、笠智衆は黒澤映画初登板だったでしょうか、驚くほどの硬骨漢ぶりを見せてくれます。

そして意外に禁欲的なのが三船。監督に愛されすぎたのかもしれない。

加藤武がまだ若いですが渡世人的実力派。香川京子が本当に純なお嬢様らしくて起用センス抜群と思われます。西村晃もある意味で絶好調。水戸黄門を演じた役者たちが黒澤映画時代にはほぼ悪役だったのは何故なのか。

相変わらずサウンドトラックの使い方が粋でたまりません。当時としては最新だったと思われる機器を利用した劇中劇の一種がたいへん効果的ですが、ジャジーなBGMもいかしてます。

脂が乗っているというべきか、ものすごい豪華出演陣をちょっとずつ使うという贅沢三昧の挙句に登場キャラクターを最低限に抑えて、2時間半の長尺ですが、たいへん面白いです。面白いって言っちゃあれな話題ですが面白いです。

……台詞の端々から謎が少しずつ明かされていくサスペンスなので、あらすじは申し上げられませんのです。

黒澤映画の緊張感は、コメディリリーフ的な遊びの要素を挿入しないことによるもので、いや作品にもよるんですけれども今回はそういう話じゃありませんで、しかもやっぱり観客と作中世界をつなぐのは藤原釜足なのでした。三船はヒーローですから。

しかもその、官僚機構の鋳型にはめ込まれた特殊な生きものが人間味を出してみたところが……観てのお楽しみ。

この年の1月に同じ三船を主人公にした岡本喜八の総天然色ギャング映画『暗黒街の対決』が封切られているので、撮影は1959年の内に終了していたわけで、東映では内田吐夢が1961年5月公開へ向けて『宮本武蔵』に取りかかり、やがて任侠路線も始まる頃。

プロダクション設立当初の意気込みあふれる力作なわけですが、黒澤的に1940年代以来の社会諷刺路線を「ひねり」の入った娯楽時代劇ヒーローへとつなぐポイント切り替え点というような、一つの総決算的作品と観てもいいのだろうと思います。



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