1960年5月、衣笠貞之助『歌行燈』大映

  30, 2017 11:02
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中途半端な芸事は、身を滅ぼしますよ。

製作:永田雅一 原作:泉鏡花 脚本:衣笠貞之助・相良準 撮影:渡辺公夫 録音:橋本国雄 照明:泉正蔵 美術:下河原友雄 音楽:斉藤一郎 能楽:木原康次 色彩技術:渡辺静郎

明治三十年頃、伊勢山田から始まるお話。女形だった監督が描く究極の女性美と日本の自然美と建築美。全篇に渡って謡曲を堪能できる映画というのも珍しいわけでございまして、後味の美しさからいっても一度は御覧遊ばせ。

衣笠貞之助(1896年、三重県生まれ)は初めて拝見したと思いますが、すごい絵をお作りになる方ですね。撮影当時の日本の好景気が偲ばれる凝りに凝ったセットを十二分に活かした構図の妙味を拝見しましょう。大映カラーの発色の美しさも堪能できます。

お話のほうは、水もしたたるいい女ってあんまりいいませんが、黒繻子の襟に清楚な顔立ちが映えて、情緒纏綿たる中にも気丈さが光る山本富士子を中心に、多人数の女優がキャッキャウフフしてる女性映画なのでした。タイトルが能楽とも『海士』とも関係ないよなと思いつつ。

設定に無理があることは承知のうえの純愛ロマンスにして能楽ファンタジーなわけでございまして、雷さま(1931年生まれ、29歳)はお芝居がやや時代がかっているようですが、重々しさが能楽に相応しいようにも思われます。お顔立ちに気品があって、紋服姿が凛々しく、ほんとうに能舞台に(直面で)上げてみたかったです。

といいつつ、ちょっと崩れた着流し姿とべらんめェも魅力的。

いきなり『海士』の稽古をしておりますが、森林を深海に見立て、生身の女性をシテに、能楽を要素として取り入れた画も音も魅力的で、これやられちゃうと能界は困るんじゃないのかなと思うほど。

謡に同時期のハリウッドを思わせるハープ入りの交響曲が重なっちゃうのは映画でしかできない表現で、音楽的にも面白い作品だと思います。

家元役は、たいへんお能の先生らしい居ずまいです。「相変わらずの未熟」とか言いながら人間国宝なんだぜみたいな人々。

最近の映画の主流は高校生が主人公ですが、この頃の女性映画って、女学校を卒業してひとり立ちする年頃の女性を描いているのです。つらい境遇ですけれども主人公は意地を通し、女友達や雇い主の夫人が肩を持ってくれる描写もあり、台所の下働きの女性の姿まで丁寧に映されており、女性が助け合って生きる姿を描いているわけで、これでも女性応援映画なのです。

監督は男性ですけれども、予告篇のナレーションも女性ですし、これはやっぱり女性が観に行く映画だったのだろうと思われます。

そうかといって堅気の娘さんたちに「あたしも芸者さんになりたい」って言われても困るっちゃ困るわけで、当時の女性客自身も微妙~~な気分を味わっていたのかもしれません。



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