1963年1月、松林宗恵・円谷英二『太平洋の翼』東宝

  10, 2017 11:01
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無理を言うぞ。最後まで生き抜いて戦ってくれ。

製作:田中友幸・田実泰良 脚本:須崎勝弥 撮影:鈴木武 美術:北猛夫 録音:渡会伸 照明:石井長四郎 音楽:団伊玖磨 資料提供:新明和工業株式会社 特殊技術:有川貞昌・冨岡素敬 光学撮影:幸隆生・真野田幸雄・徳政義行 美術:渡辺明 照明:岸田九一郎 合成:向山宏

空の青と海の青が観客の眼を洗うトーホースコープ。敵機が見えると、撃ち落としたくなりませんか?(あくまで映画上でね)

昭和19年。加山雄三・佐藤允・夏木陽介の若手三人組を中心に、三船敏郎・志村喬・藤田進・平田弘明・池部良・西村晃・渥美清が脇を固め、大人数エキストラ動員して、P-51とF6FとB-29に押し込まれた感満載で描く三四三空「剣(つるぎ)部隊」本土防衛物語。零戦もいいけど紫電改もね。

全長9.340m, 主翼11.990m, 全高3.960m, 出力1990馬力, 中島飛行機製・誉21型搭載、最大時速596キロ、20粍機銃4丁装備、陸上局地戦闘機、紫電21甲型。日の本の御国の四方を守るべし。

源田大佐の史実に基づいて、人物名だけちょっと変えた、伝記的フィクション。基本的には愛らしくもアップに耐える精巧なミニチュアワークを観るアクション映画の一種で、人間模様も若手それぞれの個性を活かした清々しい青春群像劇ということでいいんですが、戦士の微妙な心理がよく再現されております。

序盤から丁寧に若者たちの姿を描いてきて、ひと段落したところで、ややファナティックな集団が乗り込んでくる。登場人物たちと観客が違和感を共有する。タイミングが良いですね。

若者たちが唄い出すと、スーーッと後ろへ下がるカメラワークも印象的です。

1時間25分あたりからは、やられたやられた。涙腺崩壊とはこのことです。これが実際に海軍の飛行機乗りだった脚本家・須崎勝弥から、去り行く者へのはなむけ。

散る桜。残る桜も散る桜。

反戦の思いを胸中に燃やしつつ、前線将兵を全力で応援し、英霊を讃えるというのは、実際の戦中に制作された「戦意高揚」映画の基本姿勢でしたが、敗戦後17年(作中ナレーションより)の時点ですから、スタッフ・キャストとも、あの当時の実感を共有し、そのまま発露させているのです。

女性に対する言葉も、軍令部の用兵への批判も、加山の最後の台詞も、実際に戦中に須崎が思ったことなのでしょう。

1953年の『戦艦大和』で副長を演じていた藤田が伊藤長官を演じているのも印象的です。

行く我々が国のためなら、残るお前たちも国のためなのである。(『戦艦大和』より)

映画というのは費用が掛かりますから、観客本位の娯楽性を優先し、迎合性を示すこともあります。

これは、もちろん男性好みの特撮の面白さを追及した娯楽作品の一種ではありつつも、脚本家に実際の搭乗経験があったことと、監督がその思いを尊重したことによって、自主制作ではなく商業的企画による映画で自伝的心理を表現できたという稀有な作例だと思います。

優秀な飛行機も、人が乗らなければ動きません。実際に飛行機を墜とすということは、機銃で搭乗員を撃ちころすということなのです。対する米軍の中に野球帽を被った少年のような兵士がいることをきちんと映し出しているのも印象深いです。

日本の空と海が永遠に静かでありますように。



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