1966年10月、山本薩夫『白い巨塔』大映

  17, 2017 11:05
  •  -
  •  -
今夜しみじみ知らされた男心の裏表。

製作:永田雅一 原作:山崎豊子「サンデー毎日」連載・新潮社版 脚本:橋本忍 撮影:宗川信夫 録音:奥村幸雄 照明:柴田恒吉 美術:間野重雄 音楽:池野成 助監督:岡崎明

映画は大映。昭和四十一年度芸術祭参加作品。英雄か、偽善者か。(予告篇より)

実弾飛び交う最前線にもいろいろあるもので、言わずと知れた大学病院内幕物語。敗戦の痛手もすっかり癒えて、民主日本も爛熟しちゃったなァ感満載でお送りいたします。医学部教授っていい家に住んでるんですね(イメージです)

ところどころに「カラーではお見せできません」的な画がございますので苦手な方はご注意ください。サンデー毎日がご本人出演してます。こんな記事載るんかいなと思いつつ。

敷地内禁煙ではなかった時代なので、そこは冷静に。女性医師の姿もありませんが、やむを得ません。妊婦さんはたいへん多かったもようです。流しの歌手も時代を示すアクセサリー。白衣に白い字幕がかぶっちゃって読めないのは凡ミスだと思います。(´・ω・`) 

船越英二と滝沢修がいい感じに歳とりました。加藤嘉演じる大河内教授のお部屋に掲げられた「洗心」の扁額が印象的。俳優自身は大正生まれですが「明治の男」という演技が心に残ります。

大学病院の裏事情が開陳されていくわけですが、手早く説明しなきゃいけないので序盤の台詞がやや硬く、ほんとうはそれを言わずに済ませるところが大人社会の妙味のはず……という残念感もありますが、これは仕方がない。

つまり、本来は「地の文」で表現することであって、映画にはしにくいところを、よくまとめたと思います。本領発揮はやっぱり後半部分。

じつは主人公は英雄にして偽善者だから困るわけで、人徳者だったら権力争いも起きないのでお話にならないのです。

原作者が女性であることを考えると「悪い男ほど憧れちゃうわ」というピカレスクものの要素があるわけですし、そのいっぽうで「どうせ男の世界なんてこんなことばっかりやってんのよ」という揶揄の意味合いも、やっぱりあるでしょう。

原作者・読者・観客を代表して、男の美学を批判するのが堅気の女性キャラクターなら、気風だけを自らの支えに寄生するように生きる粋筋の女たちの姿も(じゃっかん監督の趣味もあるかなと思いつつ)和風洋風取りまぜて、丁寧に映し出されております。

映像的にはあんまり変わったことをやっておりませんで、やや誇張気味な俳優陣の演技を、やや寄りすぎな構図で順繰りにしっかり捉えて諷刺性を高めた納得の話法ですから、観客がドラマそのものにじっくり向き合うことのできる社会派映画のスタンダードの一つと言えるかと思います。

前年に『日本列島』があったことを思うと、暴露ものというのか、権力にだまされるな的な作品が流行っていたのでしょう。そして、それらを見て「現実にはこんなことないんでしょ?」とは、ちょっと言えないわけで、この時代を知っている人にとって、創作と現実を区別しろと言われても意味が分からないってことはあるのかもしれません。

そしてまた、そういう虚実不分明な権力に(やたらと)対抗意識を燃やすという風潮が、やがて新左翼運動に結晶していったのだったでしょう。明日はどっちだ。

なお、思い起こされるのは『ブラックジャックによろしく』なわけで、教授になれないと何もできないから教授になりたいという、システムの問題が、結局ここから平成の世に入っても克服されてなかったのねっていう。

それにつけても田宮二郎。財前ごろすけちゃんと完全に一致しております。ハリウッド俳優顔負けの濃いめの色男ぶりを堪能できます。いまさらながらに惜しい人を(早いうちに)なくしました。


Related Entries