1951年11月、成瀬巳喜男『めし』東宝

  16, 2017 11:01
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結婚って、こんなことなの?

製作:藤本真澄 原作:林芙美子(朝日新聞連載・出版) 監修:川端康成 脚色:井手俊郎・田中澄江 撮影:玉井正夫 美術:中古智 録音:藤好昌生 照明:西川鶴三 音楽:早坂文雄 監督助手:川西正義

ここは、かろうじて植民地化も分割統治もされずに済んだ敗戦国です。「ごはん」という言葉が、白飯単品の謂であると同時に、食事という行動全体をも示す国です。

1951年11月には、まだコメだけは自由ではありませんでした。白飯を食えることは本当にありがたいことだったのです。白飯の詰まった弁当は充分に豪華だったのです。

それにしても、もう少しどうにかならなかったのかタイトルと思いつつ。

昭和二十六年度芸術祭参加作品。原節子、東宝専属第一回出演。めずらしく女性ナレーションから入ります。原作の味わいを大事にしているのでしょう。テレビも洗濯機も国産品は1953年からなので、まだ日本の一般家庭には普及していません。

どう見ても横顔が平凡じゃない上原謙と原節子。いわば、ハッピーエンドのその後。

品のいい交響曲でありながら、ヒロインの心に寄り添って不安を高める早坂音楽がたいへん良い感じです。

同年5月公開の黒澤作品『白痴』では権高な女王様ぶりを見せた原節子の「所帯やつれ」っぷりと、優しいだけの夫と、20歳のアプレ女子のギャップを描くほんのり喜劇ですが、監督が「女性の生きざまを描く」ということにたいへん意識的で、意外なほど面白いので観てみましょう。

映画の撮り方としては、あまり変わったことをしないわりに構図に気が利いており、編集も潔く、ここ一番でヒロインの「歩き」を強調するなど、洗練された仕事ぶりだと思います。

庶民は平和に暮らしていたようですが、サンフランシスコ平和条約発効前なので、いちおう占領下です。鉄道の標識はまだ英語。食いだおれ人形はすでに存在したようです。書店店頭には小学館の学習雑誌の幟が見えます。

「バスガール」が勤労する凛々しい姿と、復興した大阪の町の観光もできます。仲の良いよい中之島。夜の女として生きる姿もあります。ヒロインの同級生たちは、一見いい暮らしをしているようですが、舅・姑がいることに苦労しているようです。

既婚者もいろいろ、未婚者もいろいろで、女同士の気持ちのバランス・オヴ・パワーみたいな話ではありますが、男性も言うときゃ言ってくれます。

なお、女性が当たり前のように家庭の外で「働く」って言ってるので、プロパガンダの意味があったのかもしれません。アイロンをかけながら、サッとスカートを脱いでシュミーズを見せてしまうのは観客の眼を驚かせたかもしれません。

この新時代の女性らしさを観に来ることのできた女性は、当然ながらもともと都会暮らしだったわけで、農村部では、まだ『わが青春に悔いなし』(1946年)で言っていたのと、さして変わらない生活だったことでしょう。

三界に家なき女の明日はどっちだという、この手の話は、落ちがだいたい見えてるわけで、どこでヒロインの気持ちが切り替わるかが、まさにターニングポイントなわけですが、……いまなお問題意識は健在だと思われます。

あるいは、独立回復を目前にひかえて、女性のアプレっぷりに対する男たちの叛乱だったのかもしれません。

ところで杉村春子、針使ってないですよね……?



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