1954年1月、成瀬巳喜男『山の音』東宝

  22, 2017 11:02
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われ、遂に。富士に登らず老いにけり。

製作:藤本真澄 原作:川端康成(筑摩書房・版) 脚色:水木洋子 撮影:玉井正夫 美術:中古智 録音:下永尚 照明:石井長四郎 音楽:斉藤一郎 監督助手:筧正典 

山村聡の誠実な鈍感。原節子の陰湿な純情。晩春、麦秋と来て、葉を落とした銀杏並木。女の身分は自由になっても、言ってはならないことがある。(小津作品と印象が混ざる混ざる)

プロット、脚本、キャスティング、構図、演技、編集、音楽と、何拍子もそろって魅力的。特撮もアクションもなく地味な存在ですが、たいへん洗練された一本です。

文芸調の大らかなオープニング。上原謙は今日もいい男だけど頼りなさ全開。背景は、まだ茅葺の家も残る1949年(原作初出年)の鎌倉山ですが、実質1954年当時の様子を今に伝えていると言っていいでしょう。単行本発行に先駆けて、人気女優を起用した映画の公開は、いい宣伝になった……かもしれません。

男性の外出の際はソフト帽が必須だった頃。煙草は缶ピース。原節子(1920年6月生まれ)は撮影時33歳。

一瞬、娘か嫁かハッキリしないですが「おとうさん」ではなく「おとうさま」なのがポイント。自転車はたいへん「新時代の女性」というアイテムだったようです。しかも言葉使いが美しいので見習いたいです。(お嬢様ものの創作の参考にもなります)

鎌倉の家は湿気が多くて書籍にうっすら黴が生えるって言っていたのは澁澤龍彦。

風情な庭つきの家屋もあるし、家族もあるし、職はあるし、戦争は終わったし、なに不自由ない小市民の、なんとなく憂鬱な日常。小さくひがんで、小さく傷つけ合う。

でも、むしろこれを撮れる幸せということもあるのです。女性映画かな……と思うと、最終的には男心の一人称。新時代らしく夫婦の秘密もほのめかしますが、その際の言い回しも習得したいところです。(今回は脚色が女性)

上原謙(1909年11月生まれ)は撮影時45歳。森雅之もこの年頃に情けない役をやってましたが、美男がひと皮むけるというか、ひと山越えるというか、俳優として成長するために、いやな役をやる時期があるのかもしれません。

映画ですから原作とは違う鑑賞ポイントがあるわけで、監督たちには美男好きなら美男、美女好きなら美女で似たようなタイプをそろえるくせがあるらしく(そりゃそうでしょう)、今回は美女ぞろい。その意味で目の保養という要素もあります。



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