2017/02/22

1962年4月、市川崑『破戒』大映

そして、死ぬまで皆さんと同じように人間なのだ。

製作:永田雅一 企画:藤井浩明 監修:松本治一郎 原作:島崎藤村 脚本:和田夏十 撮影:宮川一夫 録音:大角正夫 照明:岡本健一 美術:西岡善信 音楽:芥川也寸志

映画は大映。文芸大作感あふれるオープニング。重厚なキャスティング。そして牛。

話が見えないうちからたたみ掛けるように、市川らしいアイディアと、安定の宮川カメラによる魅力的な画が横溢しております。緊迫感のうちに独特の節回しのある夏十的台詞の連続によってテンポよく明かされる深刻な事情。

個人的には序盤で長門が演じる役の言ってることのほうが意味が分からない気がしますが、この手のお話は、もちろん「観客の皆さんはこれからもこういう差別を続けるといいよ!」という意味ではございません。

観客の多くには「こんにちただ今までの自らの行いを振り返る」という意味があるわけで、映画監督から喧嘩売られてるようなものではあります。

ひとつ重要なことは、新作映画を真っ先に観ることができるのは都市生活者なわけで「田舎のほうはまだこんなふうなんだね」という微妙な優越感に訴えてしまう機能もあるので、現代でも鑑賞の際は自分に気をつけましょう。

どうにも文芸大作ですから、ラセターさんのアニメのように都合よく波乱万丈ではありようもなく、観客のほうで「文芸大作にとことん付き合うぞ」という覚悟が必要ですけれども、名優ぞろいの長台詞ぞろいで画面はだいぶ濃いィ感じです。雪も深いです。がんばれロケ隊。白っぽい背景に黒っぽい人物の対比が美しいです。

三國と船越は役者の質がかぶってるので一緒には出て参りません。和服にトンビのダンディズムを書いていたのは誰だったか。

芥川音楽にこれほど仕事させた監督も珍しいかもしれません。劇伴の概念を超えてナレーターというか地謡というか、心理描写の重責を担っているようです。

雷さま(1931年8月、京都府生まれ。公開時30歳)は本当に見事な、清冽な純文学俳優ぶり。『炎上』同様、もはやドキュメンタリーというべき役柄との一体感。友人役の長門のほうはやや構えた、演技として上手いというタイプですから、良い対比にもなっております。鴈治郎とは『炎上』の後味の悪さをここで濯ぐことができたように思われます。そして男の心意気を充分に分かっている女もいいです。

なお、映画としての評価をはなれて真顔で言っておきますと、ふつうに受け取れといわれても、やっぱり人より余計に悪口いわれたくはないものです。

黒澤は、わりと都市生活者の貧富の差を描いていたような気がしますが、木下にも『楢山節考』があったように、この当時は農村部に残る差別を描くことも流行りって言うとあれですけれども、戦火を生き延びた監督たちと観客たちは、棚から落ちてきたような自由と平等と民主主義ってなんだろう? ってずっと考えていたのでしょう。

(なお印象的なはずの藤村志保の顔を最近どっかで観たぞ……と思いましたら『白い巨塔』でした)


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