2017/02/22

1970年10月、黒澤明『どですかでん』四騎の会・東宝

さァ、発車しようぜ!

企画:四騎の会(黒澤明・木下恵介・市川崑・小林正樹) 製作:黒澤明・松江陽一 原作:山本周五郎「季節のない街」新潮社版 脚本:黒澤明・小国英雄・橋本忍 撮影:斉藤孝雄(三船プロ)・福澤康道 美術:村木与四郎・村木忍 録音:矢野口文雄 照明:森弘充 音楽:武満徹 監督助手:大森健次郎

クレヨンの色、トタンの色、エバーグリーン。黒澤初のカラー作品は、目の離せない役者たちの名演ぶりと、カラーで撮ることの楽しさに溢れております。武満とは思えぬほどのほんわか音楽から入るオープニングのノスタルジックな明るさと内容との落差は……いや、完全に一致してるかな?

知的にも画的にも物すごい見応えで、まごうかたなき名作ですが、いきなり観るとビックリしそうなので、やっぱり先行作品を観てきて「黒澤さんはこういうのが好きなんだね」という心構えをつけておくのがいいだろうとは思われます。

六ちゃんは長次くんですよね。子どもは5年の間にすっかり大きくなってしまうものです。ちっちゃい時から名演技でしたが、今回も見事です。彼の目に映る世界と、観客の目に映る世界は、いずれが虚か実か。黒澤の演劇好きもここまで来たというべきか。

ロケハンも見事です。いい感じにどん底っております。もはや監督のフェティッシュと言っていいかもしれません。ウェザリング技術を駆使して要求に応えた美術陣に一本贈りたい気分になります。ときどきカメラが微動するので、思わずカメラマンを応援したくなります。が、がんばれ。

それにしても落ちるのか、この話? じゃっかんの不安を抱えつつ。

1970年というと、東映ギャング映画では「団地」が林立している様子が見られましたが、観客はマイホームの夢を見るようになっていたでしょうか。かつ子ちゃんの叔父さんは、たぶん1950年代の闘士だったのでしょう。いっぽうで「整備の奴ら」を仮想敵にする六ちゃん。

小さな自尊心と夢を自給自足する人々は、活動屋自身の暗喩なのかもしれません。二次元コンプレックスな人々も身につまされるかもしれません。

映画館に行く人というのは、あるていど余裕があるわけで、どっちかってェと差別する側なのです。演劇に詳しい監督は、明らかに道化による誇張的演技を通じて社会諷刺する手法を取り入れているわけで、観客に喧嘩売ってるんですが、観客は興行収入という結果で報いたというべきなのかどうなのか。(ランキングは悪くなかったようです)

5年ぶりの新作で、わざわざマニア受けを狙った……わけでもないんでしょうけれども。

いっぽうでカメラワークが従来とはちょっと違い、別の意味で実験的でもあるように思います。とくに1時間10分あたりから、流行りといえば流行りのカメラ使いが観られるとともに、釜足さんが底力を見せてくださいます。

伴淳三郎も喜劇俳優の面目躍如たる名演です。たんばさん(渡辺篤)美しいです。三波伸介は納得の役柄でした。

希臘悲劇にも詳しい黒澤さんは、ちょっと女性の聖性に期待しすぎるようなところもあって、女性から観て納得しやすい話ではないかもしれませんが、その木下さんとは真逆な虚構性というか、まさに劇的な要素が持ち味ではあるのでした。いつ洗濯が終わるともなく座り続けるおばさん達は、コロスっていうか地謡……?

今回は、女の口から赤裸々に性的な要素に言及する機会も多かったようで、この監督なりに新時代の女性を応援してるのかもしれません。皮肉ばかり言っているようで、根は純情な女好きだよな、と思われる監督さんではあります。



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