1943年9月、渡辺邦男『決戦の大空へ』東宝

  03, 2017 11:01
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この雷撃機は、下を向いて急降下のような形をしているわね。

脚本:八住利雄 撮影:河崎喜久三 音楽:伊藤昇 後援:海軍省 

情報局国民映画。撃ちてし止まむ。海軍省検閲済。おいでませ土浦。

まず、クレーンまで投入した撮影の工夫と編集がすばらしく、細部まで神経の行き届いた名作です。九三式中間練習機が翼を連ねる冒頭シーンがたいへん印象的。

高田稔と黒川弥太郎という美男俳優を投入して、紳士的な指導者と明るい練習生たちの交流を描いた、予科練よいとこ一度はおいでプロパガンダ映画なんですが、出来が良いのです。

この時代の常としてオープニングクレジットがないのが困るんですけれども、名のある監督さんだろうと思いましたところ、たいへん面白い経歴の方でした。(ウィキペさんに丸投げ)

フィクションのはずなんですが、ものすごい人数の飛行予科練習生たちの溌剌たる訓練の日々を拝見できます。撮影のためだけにレプリカ制服を用意するということのできた時代(戦況)じゃなかったはずですから、台詞のある練習生さん以外はリアルなのでしょう。もし撮影用なら、それはそれですごいです。海軍省の本気。

記録映像も併用しているようですけれども、いずれにしても若鷲たちの身体能力に驚嘆させられます。

クラブ(に指定された民家)には、年代の異なる婦人が三人いて、どの世代が観ても共感しやすく配慮されているように思われます。シゲコちゃん可愛いです。この一見退屈なクラブ描写がじわじわ来るわけでございまして、上手いと言わざるを得ません。

原節子は『上海陸戦隊』では日本軍に反感を持つ現地女子を演じたこともありますし、終戦後は華族の零落した姿も、赤狩りで夫を失った姿も演じたわけで、日本の戦中戦後の時局を一身に象徴した女優さんだったことです。

練習生たちも確かに俳優さんであって、カメラの前で演技してるんですけれども、実際に1943年ですから、1945年8月15日までには本当に前線に出たのでしょう。征きて還らぬ赤トンボ。

かっちゃんは16歳にしては体が小さく、七つ釦の制服姿も本人が実際に誇らしげなだけに、どうも、泣けて参ります。こんな子どもがなァ……。

という感想は、こちらがその後を知っているからであって、映画自体は若者たちの笑顔のままに明るく爽やかな感動の雰囲気を保つことに成功しております。

昭和18年というと、すでに敗色が兆し始め、生活が厳しくなって来ており、入隊するといっても万歳三唱もなく、見送りが質素だったという手記もあります。

こののち、学徒出陣ということになると、送り出す国民の中には密かに疑問を感じる人もあったことでしょうけれども、この時点では、映画人たちは映画的良心というのか、観客を楽しませるために持てる技量の最大限を投入したようです。

いっぽうで雷撃機のエピソードのあつかい方には、ちゃんと本音を織り込んでおりました。

戦時中の東宝は子会社を設立して戦記映画を量産していたらしく、中には現在の鑑賞眼に耐えない作品もあったことと思われますが、こうして受け継がれ、ソフト化された作品は、技術的評価のみならず、現代人を納得させ得る精神性を備えているものです。

映画序盤には軍楽隊を先に立てた九段への行進シーンがありますが、思えば不思議な絵ではあって、80年前までは江戸時代だったのに、体の小さなアジア人がすっかり西欧の真似を覚えたのです。

鎖国を解かなければ、軍隊が近代化することもなかったかと思うと、全力で西欧の真似をして、真似をして、その挙句に自分から傷つきに行ったようなものだったのです。

アメリカが放っておいてくれればよかったのにとSF的な想像にとらわれれば、かの国との因縁も晴れないなァ……と奇妙な感慨もにじんで参ります。

なお、2006年8月発売のレンタル用DVDには現在の土浦駐屯地内に保存されている昭和10年代の建物と、雄翔園の案内映像が納められています。

御国の四方の空が永遠に静かでありますように。

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