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1954年2月、本多猪四郎『さらばラバウル』東宝

海軍の飛行機乗りはみんなあたしの恋人よ。

製作:田中友幸 脚本:木村武・西島大・橋本忍 撮影:山田一夫 美術監督:北猛夫 美術:阿久根巌 録音:宮崎正信 照明:猪原一郎 音楽:塚原哲夫 監督助手:古澤憲吾 特殊技術:円谷英二・渡辺明・向山宏

副題:最後の戦斗機。南海の果てラバウルに咲いた恋二つ!(ポスターより)

護国空袖。腹のくくれた戦場リアル。『太平洋の鷲』に続く戦後の東宝戦記映画2本目。アメリカ極東空軍司令部から記録フィルムをお借りしてお送りいたします。

物量の桁が違って敗色濃くなりまさる南方戦線、201空。焦燥に駆られる男たち、持ち場を守る女たち。苦しい時代をよくぞ再現しました。

零戦とともに何年という戦歴を誇る者の男泣きを描くのは、自虐史観というのともまたちょっと違う。みずからを顧みて、行動を変えて行くことができる素直さが日本人の良いところと心得ましょう。

1950年代らしい熱気あふれる南国群像描写から始まります。木像はじゃっかん怖いです。ビールはエビス。

まだ30代の池部さんと平田さんと三國さん。若手も清純ロマンス向けの美男美女をそろえた娯楽作品……のはずですが、お話はたいへんシビアです。

戦中映画のような高揚した美化がなく、批判に傾いているのは当然としても、本多さんという人がすこぶる自然主義的素質のようで、実直に丁寧に最前線の日常を描くのです。

負ける一方のラバウル戦線最終局面であって、物語らしい物語もなく、コメディリリーフを投入して映画的に面白くしようという意図もほとんどないようで、観るほうの器量が問われるような気も致します。

音楽はややメロドラマ調で、ノスタルジックではあるんですが、使い方はあんまりセンス良くないです。

じゃあ何がいいのかというと、まさにその「ベタ」な感じがいいのです。劇中には従軍記者が登場しますが、もう本当に監督が現地へ乗り込んでホームビデオを撮影してきたというような、そのまんま感がいいのです。

南方ロケではなくセットを用いたスタジオ撮影だと思われ、戦中映画では見られなかった将校が長刀を手放さない姿と、いわゆる海軍式敬礼が見られるので、すでに少々フィクション入りつつあるようですが、俳優たちはほんとうに無精髭を生やして汗ばんでおり、たいへん真面目にリアリズム描写に取り組んでおります。

主権回復後2年ですから、戦記映画が解禁されて2年でもあるわけで、国民は本当にこれらの映画によって、大本営発表の裏にあった実態を勉強したのだと思います。

池部良は台詞まわしに癖のある人で、とくべつ演技がうまいというわけではないんですが、無言の表情が美しく、カメラもそれをよく捉えており、堪能できます。

ロマンス仕立てであるところからいっても女性観客動員を意識しているのは明らかで、そう思えば全篇を貫く批判精神も納得であり、この裏には木下恵介も題材にした通りの婦人による反戦運動があったわけです。

木下といえば、どうもこの地味ながら有無を言わさないリアリズムぶりは『日本の悲劇』を思い起こさせるのでした。



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。