1971年7月、小沢茂弘『傷だらけの人生』東映京都

  03, 2017 11:04
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言い方はいろいろあるもんやなァ。喧嘩売ってきたんはそっちやで。

企画:俊藤浩滋・橋本慶一 原案:石本久吉 脚本:村尾昭 撮影:吉田貞次 照明:増田悦章 美術:井川徳道 音楽:渡辺宙明 助監督:清水彰

円熟の96分。画がたいへん美しい傑作です。今日も鶴田さんが渡世の作法を教えてくださいます。殴り込みの際も挨拶は大事です。1971年の世にあえて問う日本の美学。

鶴田が1960年代を通じて演じ続けた侠客をイメージした歌謡曲がヒットしたので、映画のほうが後から作られたという経緯が微笑ましいわけですが、物語はたいへんハードです。

やや複雑な対立の構図に巻き込まれた主人公によって「右を向いても左を見ても」という歌詞を見事に再現しており、撮影にも編集にも神経が行き届いて、あァここまでやって来てよかった感に満ちております。

小沢茂弘&吉田貞次。クレーンもレールも使用せず、せまいセットの中にカメラを据えて首を振ってるだけのホームビデオ状態なんですが、それがすごく効果的なのです。実録任侠路線。

思い起こせば小沢茂弘はいつもそうだったわけで、たとえば鏡を使った象徴主義的な仕掛けを考えたり、赤い照明を使ってみたりといったことをせず、物語は極道ファンタジーなんですけれども、演出は自然主義志向だったのでした。

生みの親子、育ての親子、渡世の親子。義理が結んだ男と男。情がつないだ男と女。ひとつの心に重なる心。

オールスターが納得のポジションに配置されているのが嬉しいです。遠藤辰雄が渋くなって貫禄がつきました。石山健二郎とのツーショットが画面を 暑苦しく 重苦しくしてくれます。

暴力・性的描写は1960年代に較べれば過激の度を高めており、テレビに押されて映画が際どいところで勝負をかけなければならなかったこと、新左翼の興奮さめやらぬ世相を反映しているのかもしれません。

1964年(東京五輪の年)から始まったカラーテレビへの買い替えがほぼ完了して、婦人の多くが自宅にいながらにしてドラマを観ていたでしょうから、かえって映画を男性専科として企画しやすくなったということもあったのかもしれません。

長い殴り込みシーンは、もうそれだけで一本のドラマになっております。

任侠路線の嚆矢とされる『人生劇場 飛車角』を撮ったのは違う監督さんで、じつは任侠ものがお好きじゃなかったんだそうですが、小沢さんはしのごの言わずにプログラムピクチャーの枠内で最高の効果を挙げる人だったわけで、なんだかんだとお説教がましいことを言いながらお天道さまに背中を向ける日陰育ちの古い人間のキャラクターを鶴田に与えたのはこの人でした。

その二人三脚で築き上げてきた世界観の集大成は、大正末期に設定されておりますが、官憲などの背景的人物以外の主要登場人物がすべて和服を着用しており、風情な庭つきの広々とした日本家屋に住んでいるのでした。

天皇とまで呼ばれた人は、マニアが喜ぶ要素をよく御存知だったことです。


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