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1964年7月、篠田正浩『暗殺』松竹

こうして刀身を透かすと、刃の地肌に匂い立つ湯走りが星のように点々と青く冴えてくる。

製作:山内静夫 原作:司馬遼太郎(「幕末」より) 脚本:山田信夫 撮影:小杉正雄 美術:大角純一 音楽:武満徹 録音:福安賢洋 照明:一瀬与一郎 助監督:貞永方久 剣技指導:堀田辰雄

太平の眠りを覚ます蒸気船。文久三年、勤王リアル。武士には勝修羅がよく似合う。七星剣を持つ男の明日はどっちだ!?

丹波哲郎(1922年生まれ)が幕末の野心家・清河八郎(1830-1863)の裏表を演じきった快作。『宮本武蔵』では情けない本位田又八だった木村功も、こちらでは凄みのきいた表情を見せます。

カラーテレビ普及の世にあえて問うモノクロの美学。監督の年齢を考えると、ものすごく野心的といえるでしょう。

監督(1931年生まれ)にとっては『心中天網島』よりも『乾いた花』よりも前なんですが、独特の照明使いとカメラ使い・精巧な編集技がすでに確立しております。

勤王vs.佐幕の不安に満ちた世相、学生運動に似た志士たちの荒削りな純情さが見事に再現され、実録フィルムみたいです。楽器を取り落としたような武満音楽が響き渡ります。寺田屋さんはご災難でしたね。

佐田啓二(1926年)の初登場シーンは、一瞬気づかずにやり過ごして巻き戻してみたり。お芝居がすごくうまくなりました。どうしても楽器を構える姿が定番らしいです。残念ながら最晩年の出演作となってしまいました。

山岡さんと芹さんは、地味な俳優さんながら印象的です。

武家の使う二人称が「きみ」なのがえらい違和感ある脚本ですが、実際に学生の鑑賞を意識しているのでしょう。会話そのものは抑制がきいた、大人のものです。

映画全体の視点は基本的には勤王寄り。当然ながら日本の学生運動は、打倒権力といっても皇室に弓引くことはなく、時の行政府が相手ですから、この当時と構図が同じだったのです。

撮影当時として、劇中の時代からちょうど100年経ったわけですが、新左翼運動が世界的に湧き上がるのはこの後ですから、一歩先んじて歴史に学び、警鐘を鳴らすという意味合いもあったのかもしれません。

『黒い画集・寒流』が1961年、『白い巨塔』が1966年だったことを思うと、戦争の反省と終戦直後の貧しさを描こうとしていた1950年代を脱して、新たな権力が確立された1960年代をいかに生きるかというのが観客たちに共有されていたテーマだったのでしょう。





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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。