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1954年11月、『ゴジラ』東宝

テレビを御覧の皆様。これは劇でも、映画でもありません。

賛助:海上保安庁 製作:田中友幸 原作:香山滋 脚本:村田武雄・本多猪四郎 撮影:玉井正夫 美術監督:北猛夫 美術:中古智 録音:下永尚 照明:石井長四郎 音楽:伊福部昭 特殊技術:円谷英二・向山宏・渡辺明・岸田九一郎 監督助手:梶田與治 音響効果:三縄一郎

製作費一億、六ヶ月の苦闘が生んだ世紀の巨編。(予告篇より)

まだ昭和20年代ですよ。室内楽はブダペスト。オートバイはキャブトン。ラジオはオンキョー。黒澤明『生きものの記録』の前年。(!)

東宝の本気。円谷の男気。本多の誠実。宝田はまだ若くて(初主演)清潔感があり、平田は善悪不分明な妖しい魅力をたたえつつ、学者として、日本人として、志村とともに物語に倫理性の深みを与える。

雄々しく立ち向かう防衛隊、消防隊。一歩も退かない報道屋魂。いよいよ最後、さようなら、皆さん。さようなら。

「1960年代に入る前に観ておかなければならない作品があったなァ(平田さん出てるし)」ぐらいのつもりで借りたんですが、思いがけず本気で泣きました。

壊しも壊したり、円谷組。しかもあれですよ、根が真面目な本多さんですから、怪獣映画のくせに面白おかしくやろうって気がないわけで、全篇が沈痛なリアリズムに満ちております。お父ちゃまんところへ行くのよ。乙女たちのコーラスは桐朋学園全面協力だそうです。

しかも展開は早いのです。

間延びしないということは、さまざまな場面を撮り溜めてあって、短めに編集するから可能なのであって、あァ本当に頑張ったんだなと。

リアルでは安保闘争果てて、平和条約発効後2年。警察予備隊は1950年設置・1952年「保安隊」に改称・1954年「陸上自衛隊」に改組。

劇中ではゴジラに敵わないわけですが、日本の防衛力の勇姿を印象づけ、いまだ「戦後」の復興期にあった国民を勇気づけるという意味合いもあったかと思われます。爆撃はロケット弾になってます。

初の国産テレビが売り出されたのは1953年。この劇中でも印象的に用いられております。映画の観客動員数が最高を記録したのは1958年(黒澤『隠し砦の三悪人』・木下『楢山節考』・市川崑『炎上』公開年)だそうですから、この頃にはまだ映画業界は上り坂だったはずですが、だいぶテレビの存在を意識していたのでしょう。

なお、この1954年は黒澤『七人の侍』・木下『二十四の瞳』が公開された年でもありました。濃いですね。

伊福部昭のインタビューを収録したDVDを借りたんですが、実際の戦争の時代を経験した人は「負けた」って仰るですね。終戦になったなんて言わない。

彼は林業に関わっていたという変り種の作曲家で、科学技術でアメリカに負けたという気持ちがあったから、ゴジラが近代的な防衛網を突破する姿が爽快だったんだそうです。(そのほかに映画音楽に関して貴重なお話を拝聴できます)

とはいってもゴジラがアメリカ上陸した話ではないですから、実際に(劇中で)被害を受けているのは本土決戦を経験しなかった日本の建造物であり、首都機能であり、昭和天皇が一命を賭してお守りくださった日本の国民であって、しかもゴジラ自身もまた水爆実験によって棲家を追われた被害者なのでした。第五福竜丸事件は1954年3月。

あまりにもタイムリーな、あまりにも時局にビビッドに反応した作品であり、「きわもの」のそしりを免れない線上に位置しながら、どうにもアメリカの原水爆の暗い影が日本を覆っていることに対して、戦中は戦記映画を量産していた東宝が本気出してしまったので、本物の時代精神の証言の重みを持ってしまったのでした。

(主権回復後初の選挙で当選したのであろう婦人議員の活躍も印象的ですね)

美男美女を3人そろえたロマンスのカードを1枚くわえているわけですが、河内桃子に清楚な気品があることと、脚本が饒舌でなく、あまり恋愛感情の描写を追求しなかったことも全体の質を高めているかと思います。

ゴジラの最後をいろどる曲が勧善懲悪の高揚感ではなく、荘厳な葬送曲の趣を湛えていることも感慨深いですね。

重要なのは、アメリカを非難することではなく、日本の良心を示すことなのでした。

(なお、主人公はゴジラだそうです)

そしてやっぱり「エヴァもデジモンもここから始まったんだなァ」と思われることで、日本製SF小説も手塚治虫もこの頃から急成長したわけですが、それ以前にやっぱり日本のアニメ界はゴジラ(と円谷組)に足向けて寝られないなと思うのでした。

……大画面で観たい……。



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。