1960年10月、木下恵介『笛吹川』松竹

  12, 2017 11:03
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お前はでかくなっても戦なんかに行くじゃねェぞ。

製作:木下恵介(補:脇田茂) 原作:深沢七郎(中央公論社版) 脚本:木下恵介 撮影:楠田浩之 美術:伊藤喜朔・江崎考坪 音楽:木下忠司 録音:大野久男 照明:豊島良三 監督助手:大槻義一 謡曲『屋島』謡:観世元昭 笛:寺井啓之 武田信玄役:中村勘三郎 上杉謙信役:松本幸四郎

昭和三十五年度芸術祭参加作品。イーストマンフィルム使用、特殊色彩映画。

輪廻はめぐる転生の輪。満を持してセルフ・プロデュース。熟練スタッフ一丸となって描き出したのは、勝者目線の歴史への二重の批判でした。

ちょっと無理のある方言が印象的な甲信越方面第三弾は、雄大なロケーションに、まさかの馬馬馬馬馬。木下恵介、男気炸裂。この時点では黒澤もここまでやってないですよね?

しかも、イーストマンフィルムを使って、あえてこれですか木下先生。

『風花』で見せた、観客の理解力に挑戦するかのような時系列シャッフルも相当おもしろかったですけれども、これは一体……。映画監督数あれど、木下はフィルムと戯れるというのか、本当に映画作りを楽しんだ人だったのだろうと思います。

『風花』に登場したのと似た「橋のある村」の時間を400年くらい戻したということのようで、底辺的庶民目線から「お館さま」の様子を眺めて暮らす間には、小さな村の小さな家にもいろいろ起きます。高峰秀子は盤石の存在感。

お国のために奉公するという意識と空襲のなかった時代の戦争に対する庶民の距離感が、長い橋に象徴されているようです。

いっぽうで、武家の支配の論理が農民蔑視の意識を生んでいった様子も描かれているようです。

つまり、戦時中の抽象的に高揚した愛国精神と、戦後まで残った差別意識の根源が、このへんにあることを明かしたということなのでしょう。

「日本の悲劇」を描いてきた監督が自分で自分の疑問に答えた格好ですが、この頃にはまだ歴史学が心性史にまで踏み込んでいなかった可能性を思うと、すごい洞察力です。

同時に、1960年は新安保反対の時代ですから、ちょうどこの地方から上京して行って、学生運動に加わってしまい、ちょうどここに登場するのと同様に、生活実感から遊離した正義感を覚えてしまった若者もいたことだったのでしょう。

なお、丸みのある謡の声と、寺井さんち独特の笛の音色が魅力です。



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