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1961年9月、木下恵介『永遠の人』松竹

むかし一人の女が、母になったです。

製作:月森仙之助・木下恵介 脚本:木下恵介 撮影:楠田浩之 音楽:木下恵介 美術:梅田千代夫 録音:大野久男 照明:豊島良三 フラメンコギター:ホセ勝田 唄:宇井あきら 監督助手:吉田喜重

ふと「世阿弥に見せたかったな」と思った映画。女の執念をここまで描きぬいた作品も珍しいでしょう。コーラス隊はお地蔵さん。

昭和三十六年度芸術祭参加作品。昭和七年から始まるお話。甲信越方面を出て、阿蘇へやって来ました木下組。今日も滑らかに水平移動する楠田カメラは、たおやかなモノクロ撮影。

木下監督には他にも得がたいパートナーがいて、弟の忠司といいます。

この人たちは映画の劇伴が下座音楽の延長だった頃を知っているわけで、そこから二人三脚で劇伴の可能性を探り、音楽で心理描写する技法を試行錯誤し、構築してきたのだったろうと思います。

映画の観客動員数ピークは1958年ですから、この頃にはすでに下降し始めています。これは『二十四の瞳』や『喜びも悲しみも幾年月』と同じ年代記の形式で、『野菊の如き君なりき』に似た地主の家庭のお話ですから、意地の悪い言い方をすれば「狙った」ということもできます。

けれども、この決して甘くはないお話を企画として通したのは『遠い雲』『風花』さらには『楢山節考』などの蓄積の重みだったのでしょう。

物語は『遠い雲』で行間に落とし込んだ要素に踏み込んだわけで、『喜びも悲しみも幾年月』の裏返しとも言えそうです。

劇中には学生運動の話題が登場しますが、木下組は実際に昭和36年の時点でロケハンしてるわけですから、農地改革後も伝統的な風景が残っていたわけで、これと同時代に『乾いた湖』(篠田正浩)の青春模様があったかと思うと不思議な感じです。

公開当時に実際に学生だった観客にとっては「きみたちの親御さんにもそれぞれの過去がある(若い自分を大切にしなさい)」という教訓の意味を持ったかと思われます。

ヒロイン達の同世代にとっては自分の過去を振り返るきっかけとなり、それぞれに自分の舅や夫の話を始めて収拾がつかなくなりそうですが、まちがいなく共感度は高かったことでしょう。

木下はつねに男心の独善も女心の独善も御都合主義なく描ききってしまうわけで、よくもここまでそれぞれの心理を追求したと思います。しかも若者たちはスパッと言ってのけるのでした。

この「誰かの視点によって価値観が統一されていない」という複眼的なのが木下さんのいいところ。

なお、次男坊の成長後の俳優が、なんだかたいへん個性的でいい感じです。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。