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1964年5月、木下恵介『香華』松竹

喪服の白は、二度と夫を持たん覚悟やろが。

製作:木下恵介・小梶正治 原作:有吉佐和子(中央公論社刊・婦人公論連載) 脚本:木下恵介 撮影:楠田浩之 音楽:木下忠司 美術監督:伊藤喜朔 美術:梅田千代夫 照明:豊島良三 録音:大野久男 特殊撮影:久野薫 タイトルデザイン:土岐邦彦 助監督:桜井秀雄

岡田茉莉子一世一代の名演と、伊藤喜朔渾身の豪華セットと、盤石の楠田浩之的クレーン撮影でお送りする文芸大作2枚組。

「お昼の連続母子共依存ドラマ、2クール分をダイジェストで」というべき密度の濃さと展開の早さ。

女同士のハードボイルドと申しましょうか。1940年代には笑いに紛らせていた木下さんも次第に自信を深めて、女の業の描写が大胆になって来たのでした。

原作でも着物の描写が印象的ですが、モノクロ撮影が残念なほど衣装が素敵です。

物語上のアレンジはないので、その点は原作ファンにも安心です。前半の脚本は、ちょうど原作を裏返した形で、原作者が行間に落とし込んだところを露呈させたようになっております。忠司音楽は相変わらず女心を雄弁に語ります。

個人的には神波伯爵が老いぼれて行く描写が好きなんですけれども、木下さんの壷ではなかったようで、やっぱりというべきか戦後描写に力点があり、後半の見応えが高いです。

この話は、原作からしてヒロインの境遇が数奇に過ぎて、果たして一般婦人が共感できるのかどうか……というほどのものですけれども、台詞の掛け合いでポンポン進む叙述ではなかったはずです。

したがって、この映画化最大の見どころは、二次創作とも言うべき大胆さで母親の人物像を描き出した脚本にあるでしょう。

有吉には「頭で書いている」という批判があったそうですが、幸田文の場合は実際に芸者置屋に中年家政婦として住み込んだ経験があって、それをそのまま書いたら受賞したのでした。

有吉の紀州シリーズは比較的初期の作品で、作者自身がまだ若いのでしょう。母子の葛藤が中心主題。それを実体験のない花柳界に重ねたので、もとより無理はあるのです。そこを木下が補ったというのがいいでしょう。

乙羽信子のバカ女っぷりが出色なわけで、彼女はちゃんと田中絹代に似た感じがあって、しかもやや地味なので、『永遠の人』でも損な役をやってましたが、こちらは……演るほうは楽しかったかもしれません。

情が深くて、教育がなくて、縫い物はうまいけど、ほんとうに衣装のことしか分からない。

なまじ顔がいいので鏡の中の自分に夢を持ってしまったのであろうこの女は、家事・育児がいやで婚家から飛び出してきてしまうわけで、これはこれで女性の社会進出時代の気風を代表していると言えば言えるのです。そんな彼女の本心は……。

やっぱりと言うべきか、木下流に声を荒げない反戦思想が冒頭から全篇を貫いているのでした。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。