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自由恋愛を楽しむ重たい女と、BLが提供する幻の自由。

小津安二郎『早春』(1956年)・木下恵介『香華』(1964年)には共通要素があって、派手な女ですね。パッと目を引く顔立ちで、本人も自信があって、小娘みたいな衣装が好きで、カッコいい人と自由恋愛がした~~い、毎日つまんな~~い、なんか面白いことない~~? というわけですが……

男に依存しているだけですね。結局めんどくさがられる。男の家族からも嫌われる。

百歩譲って「結婚制度があるから悪い。自由恋愛推奨」というのは本人のポリシーだからいいけれども、だったら尚のこと「あたしどおしたらいいのか分かんなくなっちゃった~~」じゃダメなんじゃないか?

相手の男の家まで押しかける行動は、だいぶダメな感じです。いちばん自由な女のつもりで、いちばん男に迷惑かける女、重い女になってしまっている。

「いつでもどこでも私がいちばん」という自己満足だけは出来るかもしれませんが、余計めんどくさいですね。映画会社の宣伝担当や、新聞・雑誌の記者などは「魔性の女」と呼ぶかもしれないけれども、憧れるようなあれじゃないです。

映画監督というのは、ある意味いいご身分で、自分じゃ浮気せずによその女が浮気する姿を描いて「こんなことじゃいかんよ」という冷たい諷刺喜劇に仕立てちゃうわけです。

もちろん当時の観客は女性です。「私だったらどうするか?」と考えざるを得ない。

じつはテレビが普及すると、映画はすみやかに斜陽したわけで、婦人は自宅にいながらにしてテレビドラマを鑑賞するようになったのですが、そのテーマは「社会進出して金銭的・精神的に独立した既婚婦人の浮気相手に頼らないドライで軽快な自由恋愛物語」……じゃなかったですね。

未婚婦人はどうかというと、自由恋愛を認めると、自分のお父さんがよその女とどっか行っちゃうわけですよ。自分より若い女を連れて来るかもしれないわけですよ。

「お母さん、あんなお父さんと離婚しちゃえばいいじゃん」と口では言っても「私が働くからさ」という娘は滅多にいない。だから一夫一婦主義結婚制度は維持されてくれなければ困るのです。

欧米の未婚女子たちは自分だけ自由になる他に道がなかったから、激烈なフェミニズム運動を展開することになったわけです。

日本には宗教的タブーがなくて、もともと「衆道の契り」を美化して描写する伝統があって、それを女性が真似して描いた場合も男性が出版に協力してくれたから、少なくとも一部の女性がそれで生計を立てることもできたし、それを読むだけで現実的リスクを取らずに自由になった気分を味わうこともできたのです。

自費出版だって、印刷所に頼む段階で断られたり、宗教的タブーに基づく厳しい法律があって通報されたりしたら、できなかったわけです。

日本では、印刷業・出版業の男たちが、女性の「表現の自由」を最大限に認めたのです。

だからこそ、BLそれ自体は「女性の出版の自由(を男性が助けてくれる)」でありながら、リアル女性自身の自由を実現するためのフェミニズム運動と相殺してしまうのです。

すなわち、女性が社会進出し、自立に充分な金銭を獲得し、既婚でありながらも人目をはばからず自由恋愛を楽しみ、軽快なフットワークで離婚・再婚をくり返す……という社会の実現を阻むのです。

勤勉で忍耐強い母親の家事労働に支えられた娘が幻の自由を消費するのです。「いまでは一人暮らしだから自分で家事してる」といっても、そのお惣菜は、どこかの既婚婦人がパート労働で工場生産したものです。工場の経営者は、あらかた男性です。

そして「やっぱり私も結婚すべきかどうか?」と悩み続け、挙句に「お母さんのせいで結婚できなかった」と言い訳する必要があると自分で感じてしまう。

これが、BLという消費財を高度に発達させた日本の現状。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。