2017/04/28

1967年8月、岡本喜八『日本のいちばん長い日』東宝

全国の聴取者の皆様。ご起立を願います。

製作:藤本真澄・田中友幸 脚本:橋本忍(大宅壮一編『日本のいちばん長い日』より 文芸春秋「戦史研究会」)撮影:村井博 美術:阿久根巌 録音:渡会伸 照明:西川鶴三 音楽:佐藤勝 監督助手:山本迪夫・渡辺邦彦 編集:黒岩義民 

創立35周年記念映画。日本映画演劇陣総出演。東宝が全機能を動員した超大作。これが日本の映画だ。(予告篇・ポスターより)

東京オリンピック成功、カラーテレビ普及の世に敢えて問うモノクロの心意気。結末に至るまで圧倒的な映像美と物量作戦で突き進みます。小さき島国よ。何度めだクーデター。(未遂)

自虐史観(軍隊を悪役として描き、日本は悪いことをした国だという意識)というのは敗戦まもなくの映画には観られなかったものが1970年代から急に強くなってきたような気がするんですが、この土足っぷりを観てしまうと、陸軍(の一部)への反感は、戦後の国民の中にも強まったのかもしれません。

ただし、面白いって言っちゃ失礼だが、面白いです。まさかここへ来て伊藤雄之助の表情に泣かされるとは思いませんでした。侍従役の俳優たちは、たいへん上品で、それらしいです。

1945年8月15日。

まずはその手前に至る経過のグダグダっぷり一部始終が手際よく語られ、現代史の良い勉強になります。この裏で潜水艦イ-57号が動いていたことになります。

仲代達矢による硬質なナレーションのところどころに現代では不適切とされる単語が含まれ、戦禍の悲惨さを伝える実録写真も使用されており、フィクションとしても「カラーではお見せできません」的場面が少々ございますので苦手な方は要注意ですが、あえて一家に一枚。

ここでリアルな話をすると、いちばん若かった兵隊さんは、1945年8月に14歳で海兵団に志願入隊した人なので、1931年生まれ。今年86歳になられます。

それより5歳以上年長で、この映画に登場する将兵たちの同世代だった方々は、90歳以上です。

三船は1920年生まれで、25歳のとき実際に玉音放送を謹聴したはずです。観客の多くは彼と同世代。出征・復員なさった方々だったことになります。

その厳しい同時代人の眼にさらされる画面は、御前会議はもちろん、閣僚会議の様子や、防空壕で行われた秘密会議等々、一般人の証人などあり得ないわけですから、戦後の閣議などを参考に、ほぼ想像で設定するしかないはずですが、制作陣はたいへん誠実に勤めていると思います。

宮城内は、映るのは一瞬なんですけれども、ロケできるわけはなく、各部屋をセットで完全再現したと思われます。

女性はほとんど登場せず、「その頃の家族は」というふうに話を逸らさずに、真正面から騒乱の現場を撮りに撮ったドキュメンタリー調で、俳優たちの玉の汗を映し出すズームアップや冷たい諷刺的クレーン構図の勘所が良く、映画そのものとしての出来栄えの見事さは、やっぱり「面白い」と言わざるを得ません。

録音場面と児玉基地をカットバックしたのは、あまりに絶妙すぎたと言うべきでしょうか。

オープニングクレジットがないので、どんどん始まるわけですが、さぞかし名のある監督さんだろうと思いましたら岡本喜八さんでした。(ひたすら三船さん目当てで監督名も確認せずに視聴開始)

なお貫太郎首相は笠智衆で、米内海相は山村さん。納得の布陣。島田正吾のやや時代劇がかった台詞回しがたいへん効果的です。藤田の絶叫はビリビリと空気を震わせます。

橋本脚本の残念なところ(差し向かいで会話する場面が多く、動きが少ない)は払拭され、叛乱将校たちの激越な台詞の数々と、スタンディングオベーション的感動を呼ぶ最終ナレーションは、脚本家人生の中でも金字塔的な作品だろうと思われます。

オールスター戦争映画というと『史上最大の作戦』『パリは燃えているか』が思い出されますが、彼我の作風の差異は、映画の面白さにもいろいろあることを教えてくれるようです。(岡本が個性的すぎるのかもしれない)

ポスターは三船さんのハラキリ画像ですが、これ世界中に撒いたんですか東宝さん。

Related Entries