1975年8月、黒澤明『デルス・ウザーラ』モスフィルム

  01, 2017 11:04
  •  -
  •  -
わが良き友よ。灰色の翼の鷲よ。

脚本:黒澤明、ユーリー・ナギービン 撮影:中井朝一、ユーリー・ガントマン、フョードル・ドブロヌラボフ 美術:ユーリー・ラクシャ 音楽:イサク・シュワルツ 

堂々141分。ゆっくり御覧なさいませ。アカデミー賞最優秀外国語映画賞、モスクワ国際映画祭金賞。

エイゼンシュテインとロシア文学に憧れ、セットのリアリズムにこだわり続けた人が1年かけて撮る大シベリアの風景は、畏敬の念と親愛の情に満ちて、いろんな意味で思えば遠くまで来たわけですが、これが撮れたから俺もう死んでもいいわ……みたいな、監督の深い呼吸が聞こえてくるようです。

構想30年。淡々としているようで急に山場があって、なだらかに落ちて行って、また次の山に差し掛かる、波形を描くような脚本は、人間存在の諸相を見せて、監督の呼吸とともに深いのでした。

1940年代以来さまざまな技巧を凝らした挙句に自分史上初のカラー作品があれだった人が、ここへ来て「あえて何もしない」という引き算の美学を選択したかと思わせておいて、ときどき独特の構図と色彩と編集のセンスを見せます。自然音に近いような何気ない音楽の使い方も素敵です。ワイドスコープをフル活用した家族の風景も胸に迫る画です。

中盤はあんまり何もしないとほのぼのし過ぎちゃうわけですが、冒頭に「何があったんだろう」と思わせているので、全篇をそこはかとない緊張感がつなぎ、一瞬一瞬が切ない心の宝物の輝きを帯びているのでした。

タイトルロールの使う杖がアイヌの猟師が使うのと同じ二股になっているのが印象的です。


Related Entries