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1980年4月、黒澤明『影武者』東宝・黒澤プロ

動くな。なにごとがあっても悠然と構えて、動いてはならん。

プロデューサー:黒澤明・田中友幸 外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ、ジョージ・ルーカス シナリオ:黒澤明・井手雅人 監督部チーフ:本多猪四郎 アドバイザー:橋本忍 撮影:斉藤孝雄・上田正治 撮影協力:中井朝一・宮川一夫 美術:村木与四郎 録音:矢野口文雄 照明:佐野武治 音楽:池辺晋一郎 監督助手:岡田文亮 武家作法:久世竜 馬術指導:白井民平 騎馬訓練:長谷川敏 協力:日本航空・伊賀上野城・熊本城・姫路城

浦田保利(観世流)の勝修羅を拝見できます。(まずそこ) 大滝秀治のシオリが美しいです。なお幸若舞の詞章に基づく「お能っぽい敦盛」は、1965年度のNHK大河ドラマ『太閤記』に先例がございます。

さて。

吹きすさぶ風は、今日も黒澤映画の象徴。かつて物量で負けた島国の男は、海外の若者たちがくれたチャンスを最大限に活かして、物量で世界の映画界を制しました。

台詞は最小限。画で語るという映画の面白さに満ち溢れております。

カラーフィルムの使い方もナチュラルに、色調はやや明るめに艶めいて、ああ一年かけてデルス撮ってきて良かったなァ……と言いたい肩のちからの抜けた円熟味と、相変わらずのサイケデリック趣味が両立しているのが嬉しゅうございます。

男のロマンを音で表したというべき叙情的な池辺音楽が、やや新しさを感じさせて魅力的であるとともに、時おり響く大鼓の音色が効果的です。そして戦争とは、いつの時代も音なのでした。

かつてこういう大合戦映画はハリウッドが撮っていたんですけれども、固定カメラの前を出演者が横切って行くという撮り方と、クローズアップによる迫力はこの人のもの。(撮影班の陣容がすごい)

1980年以来、タケダもナガシノも風も林も知らなかったであろう海外の若者たちに漢字の使用やサムライへの関心が広まったのだとしたら、もう間違いなくこれのおかげでしょう。

お話のほうは、ちょうどこの裏に『笛吹川』があったわけで、白刃の出入りを繰り返す支配階層を諷刺するにもいろいろあるものです。

よかれと思ってしたことが……という皮肉な展開の重なりは、以前から見られたものですが、デルス同様、ここへ来て流れに無理がなく、充電期間があったことが余分なものをそぎ落とすという、良いほうに作用したのだろうと思います。

興味深いのは木下が社会をえぐる刃として女性の気丈さを用いるいっぽうで、黒澤が臆面もなく男惚れを描いちゃうことなのでした。

役に立ちたい気持ちは用済みになりたくない気持ち。お館様への愛は自己愛と一致し、観客である庶民の心理は、本来なら戦の庭に臨む人ではない主人公と完全に一致するわけですが、ふと考えると映画監督というのは映画を撮れなきゃただのプーなのです。食糧生産も道路建設もできない。

黒澤はヤクザがきらいと言いながら、社会からはみ出してしまった存在を撮り続けてきたわけで、思えば素浪人である三十郎氏も「俺を買わんか」って言っていたのでした。

映画監督も「この企画買ってください」と言いながら社会を渡り歩く存在なのです。

映画監督だって興行収入のためにやってるんですけれども、なおかつ創作物と創作者の人間性が深いところで一致しているのは、やっぱり尊いことだと思います。

なお、ちゃんと男の子が演じているお小姓たちが華やかな着物を着用しているのが眼に優しいです。お衣装協力は三松。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。