Misha's Casket

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1966年7月、大島渚『白昼の通り魔』松竹

製作:中島正幸 原作:武田泰淳 脚本:田村孟 撮影:高田昭 美術:戸田重昌 音楽:林光 照明:三浦礼 録音:西崎英雄 助監督:佐々木守

悪魔的作品、戦慄の大公開。(予告篇より)

佐藤慶のちょっと危険な個性を活かしきったサスペンスの一種。男の甘え、女の自己陶酔。

木下恵介の実験精神と映画界の新御三家を支えきった松竹ってのはいい度胸してるなァと思いつつ、悪魔的って言葉は澁澤龍彦や谷崎潤一郎にも使われた通りで、この当時の流行の一種だったのでしょうが、じつは大島渚って人自身は悪魔的ではないのです。

題材と宣伝がセンセーショナルなので誤解されやすいだけで、観てみると意外に純情で美的な感じなのです。もちろん、画的にはたいへんヌーヴェルヴァーグです。恋愛は無償の行為だそうです。

意外なほど通り魔自身の話ではなく、その背景事情にさかのぼる女性映画の要素があって、例によってというべきか、女同士のたたみかけるような台詞合戦が聞きどころ。

篠田も好んだ大胆な編集によって過去と現在を行ったり来たりする式で、分かりやすい語り口ではないところが面白いんだよと言ってやらねばなりません。

佐久地方の方言を織り込んだらしい独特の脚本は若書きの趣をたたえて、女同士の喧嘩のポイントが今いち分かりにくく、若干めんどくさい感じは致します。たぶんまだ若い監督が女性に夢を持っているのです。インテリ女の偽善性には手厳しいようで、これは学生運動家らしい潔癖性の表れと見ていいんじゃないかなと。

1966年ですから、このすぐ横でまがりなりにも時代劇準拠のストーリーテリングを売り物とする任侠映画が流行っていたことを思うと、京大の闘士が相当とんがっていたことは間違いないようです。

とはいえ、やっぱり意外なほどヒューマニズムな人で、根本的には前向きで、作品の後味も悪くないのです。音楽が古典的で美しいのも特徴の一つですね。

ヒロインを演じる川口小枝嬢がふっくらと可愛らしく健康的な色気をたたえた良い女優さんです。大きな眼のまっすぐな眼差しと誠実な台詞まわしが印象的。

予告篇では結局彼女が魔性であることになっちゃってるんですけれども、この当時に男性観客にアピールするためなら、まァ仕方ないです。

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