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1983年5月、大島渚『戦場のメリークリスマス』

彼らは過去に生きている。

立場上、虚勢を張っていたけれど、ほんとうは友達になりたかった。時代に翻弄された不器用な3組の男と男の物語。

スーパースターを文字通り使い倒しました。名優ぞろいの実在感と、さんざんハードボイルドな描写した挙句になんかいい感じにまとめてしまう渚の料理術を嘆賞いたしましょう。

国際合作映画の音楽として、すぐに思いつくのは「日本人を和楽器で表現する」ですね。武満音楽に憧れる海外映画人も多いことと思いますが、この坂本音楽は宇宙的というか、ジャワ島の虫の声というか、人間界の騒擾を意に介さず、かつ、平等に包み込み、人々に共有される音として、たいへん象徴的だと思います。

オープニングクレジットから実在ロレンスさんによる自伝が原作であることが知れます。製作陣として外人さんが名を連ねておりますが、あくまで大島が原作を読んで「やりたい」と思ったことから始まったそうで、雇われ監督ではないのでございます。

その監督の証言によると、都内初公開の際には映画館に13歳から18歳の女性が詰めかけ、目を潤ませて監督に握手を求めたのだそうです。いかにも1983年らしいエピソードです。こののち男同士を見れば「愛よ、愛なのよ」と口走るお嬢さんが増えちまったこともまた、今となっては日本の歴史の一部でございます。

2010年のDVDには、監督などのインタビューを再録した分厚い小冊子が付属しておりまして、それによると監督の信条は「一に素人、ニに歌うたい、三、四がなくて五に映画スター」だそうです。

と言いつつ、結局うまい人を使ってる渚です。素人がいいったって、カメラの前でアガっちゃって挙動不審になっちゃうようじゃ困るわけですしね。ヌーヴェルヴァーグな人ですし、登場した時代としても「歌舞伎の型に毒されていない自然主義がいい」ということなのでしょう。

そのわりに、なんで時代劇の悪役みたいな化粧してるんですか教授。

ストーリーは、あるような、ないような。冒頭で戦況が日本に不利であることが明示されており、1950年代の映画に観られたような日本兵同士の明るさは皆無で、俘虜収容所の赤十字条約なんするものぞ的運営ぶりが忌憚なく語られます。暴力的ではあるので苦手な方にはお勧めしません。

全体にカラー撮影が美しく、冒頭からシビアなお話であることを暗示する色合いが印象的です。

ハラ軍曹は、もともと面倒見のよいガキ大将だったのかもしれませんね。もらえる物はもらっとけという発想ですから、柿の実泥棒くらいはしていたのかもしれません。

元来が純朴な、無教養な田舎の青年であることは終盤になって示されたと思いますが、あの憑き物の落ちたような変貌ぶりは、演技力ともなんとも言いがたい、特筆すべき不思議さです。

あくまでロレンスさんが主役の外人目線なわけで、日本軍は徹底した悪役ですが、西洋だって心の闇を抱えているのです。海外新聞の中には、この話を「東洋の非合理と西洋の合理主義の闘い」と評したところもあったそうですけれども、ボウイが演じた役はもちろん、他のイギリス人生徒たちが新入生を「歓迎」する方法が「合理的である」といって胸を張れた義理ではありますまい。

それでもやっぱり、これが日本で受け入れられたというのは不思議に思えることではあって、実際に出征した人々が定年退職によって社会の第一線からしりぞき、入れ違いに女権が伸長するとともに、戦争と軍隊を自然主義的に描く「自虐史観」がだんだん強まってきたのだろうと思います。

戦記映画のようなナレーションや、地図を使用した戦況の説明はなく、例によって生撮りふうにどんどん進みますから、そもそも日本と外国の戦争を知らない子どもたちには理解不能な状況のようにも思われますが、1983年の少女たちの歴史認識はいかようなものだったでしょうか。(遠い眼)

まちがえちゃいけないのは同性愛差別映画ではないことで、俘虜たちは死者を悼んでいるのであって、いなくなって清々したと言っているのではないですね。

終盤の将校の「センチメンタル」という言葉は、彼も事情を見抜いていることを暗示しているのでしょう。世紀のスーパースターを「悪魔」と見る日本人たちは、ようするにその人間的魅力を認めているわけなのでした。敵に塩を送る余裕がなかったことが悔やまれますが、男は嫉妬も命がけです。

なお「軍隊って本当にこおゆうことあるの~~?」という、1980年代風ぶりっこ演技は実在同性愛者の皆様から生温かい眼で見られますので気をつけましょう。

(※生温かい眼=冷たい眼の婉曲表現)

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。