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1963年11月、田中徳三『眠狂四郎殺法帖』大映京都

おい、やめろ。俺に剣を抜かせるのは。

企画:辻久一 原作:柴田錬三郎「週刊新潮」連載 脚本:星川清司 撮影:牧浦地志 録音:奥村雅弘 照明:中岡源権 美術:内藤昭 音楽:小杉太一郎 

祝・シリーズ第1作。雷蔵32歳。天下無双の巻き込まれ型ひねくれ者。オープニングがたいへんカッコいいのでございます。男にも女にもモテてモテて困る。(べつに困ってないか)

物騒なタイトルですが、爽やかなカラー撮影。地志カメラは今日も趣向を凝らして参ります。併映は『巨人大隈重信』だそうですから基本的に男性客向けなのでしょう。女は自分好みの美男につられて、ついでに歴史の勉強とかもしてしまうのです。

脚本家の資質によるかと思われますが、意外なことに『座頭市』シリーズよりも、むしろ娯楽色が強いように思われます。まごうかたなき冒険活劇。お色気要素も少々。

ただし眠さんは女に弱くて笑いを取るタイプではないので、うっかりすると間が持たないため、どんどんお話が進みます。

アラカンの鞍馬天狗や錦之助の源氏九郎に較べると、悪い奴が悪どすぎるというか、やや物語が暗い感じでもあります。

眠さん自身が名流の出身とか、じつは上つ方に顔が利くとかいうことがなく、ほんとうに天涯孤独の寂しさを抱えているわけで、いちおうサムライ身分らしいけど公務員(仕官)がいやなので、プー太郎なのです。

衣食住はどうしてるかってぇと女の世話になってるダメ男なんですが、つまりどっちにも強いから自由でいられるのです。

思えば東京五輪を成功させましょうという高度経済成長期、SFもぼちぼち流行し始めたミッドセンチュリーに時代劇が受け入れられたのは不思議なことではありますが、経済成長といえば聞こえがいいだけで、実在庶民の勤務は楽なものではなかったに違いなく、座頭市、さらには他社の任侠の徒と合わせて、旅がらすの気ままさが憧れを呼んだのでしょう。未来を見すえて身命をすり減らす経済戦士たちが、わずかな余暇の時間には過去に生きたのです。(たぶん)

ひじょうに珍しいことですが、脚本には主人公に斬られる側への共感が籠められており、シリーズ人気の一因かと思われます。

俺が世の中でいちばんきらいなもの知ってるか。品物のように人間を道具にして利用する奴らだ。

その悪役の親玉・沢村宗之助は伊藤雄之助の兄ちゃん。そういえば目元が似ています。並んで出たら濃い画面になりそうです。

城健三郎(若山富三郎)は、ノースタントのようです。終盤の笑顔がいいので観てあげてください。

そして美しいものはそこにいるとは言わない約束にして……DVD特典映像は、ファンとの交流会の模様を伝えるニュース映像。スッピンの雷さまは気さくな方だったようです。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。