1983年4月、森谷司郎『小説吉田学校』フィルムリンク・インターナショナル

  09, 2017 11:02
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われわれの国はわれわれが動かす。

製作:山本又一朗 原作・監修:戸川猪佐武 脚本:長坂秀佳・森谷司郎 撮影:木村大作 美術:村木与四郎・育野重一 録音:吉田庄太郎 照明:熊谷秀夫 音楽:川村栄二 主題歌『少年達よ』作詞:小椋佳 作曲・唄:堀内孝雄 助監督:中田新一 ナレーター:平光淳之助

我は海の子、大磯の。森谷司郎、畢生の名作。1980年代東宝オールスター。竹脇無我、高橋悦史、西郷輝彦、石田純一、さらにロマンスグレーになった若山富三郎(三木武吉役)・池部良(緒方竹虎役・特別出演)を起用して、すこぶる眼に優しい政治劇。石田がたいへん若く、雷蔵に似た好青年だったことが分かります。

髭のない森繁の吉田再現度高いです。稀代の名優と名スタッフががっちり組んで、外交官ならではの国際センスで講和を成し遂げた白足袋の平民宰相の人間性を共感深く、かつ忌憚なく描破して参ります。

若手官僚を閣僚に登用して政治家修行させた「吉田学校」と、戦前以来の大狸どもが鎬を削る権力争い劇という政界の裏側を真正面から描いたわけですが、締まりの良い台詞合戦と照明を利かせた美的な画面と、例によって切れ味鋭い編集で、理解しやすく、かつ胸躍るドラマに仕上がっております。巻き込まれたくはないです。

どいつもこいつもヘヴィスモーカーで、画面は男たちの苦渋と紫煙に満ちております。こういう撮影自体が現在ではむずかしいですね。

政治家たちの住居、選挙演説シーンとも、なにげにロケハンが良いです。音羽御殿も実物ロケだそうです。実名ドキュメンタリー調なので、役名は他にも懐かしい先生たちの名前が並びます。DAIGOくんのおじいちゃんもちょっと登場。

吉田が最も輝いていた当時に撮っておいた記録フィルムかのようなモノクロは黒澤トリビュートかもしれませんが、後半との対比が味噌。

袖振り合うも他生の縁なれば、恩人と闘い抜くのも宿業か。後シテというべき、ちょっと着崩した和服姿で政界をのし歩く老武者の怨霊のような若山富三郎がたいへんカッコいいです。これはヴィジュアルイメージよりも人間性を重視したキャスティングなのだそうです。嘘も誠心誠意つけば、真実になる。(真似しちゃいけませんよ)

女性議員は一人も登場させませんで、頑固親父の良心に針を突き刺す象徴的な役として夏目雅子だけを輝かせました。森谷さんらしい選択だと思います。お坊ちゃまが漫画を読んでいる様子はございません。

『戦場のメリークリスマス』『南極物語』と同年の公開ですが、観客側として1923年生まれで1945年に22歳で復員なさった方を考えてみると、この年に60歳。先輩だった方々はすでにセカンドライフに入っていたわけで、歴史となりつつある事ごとを見直す時期に入っていたのでしょう。

戦争と政治。女権伸張し、高校生ドラマが映画の主流になる手前の、男と男のドラマの総決算と言えるかもしれません。「政治を良くするためには、誉めないかんですよ。政治家は素敵だ」(プロデューサー山本又一朗)

2006年のDVDにはプロデューサー魂あふれる山本と、政治記者精神あふれる細川隆一郎のインタビューが収録されており、じつに興味深いお話が聞けます。占領下。それは本物の漢がいた時代。

予告篇の編集ぶりもたいへん良いです。戦後史の勉強がしたくなったら、一家に一枚。


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