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なぜ先輩たちが「同人はフェミとは別」と言ったのか考えましょう。~自立支援の時代の陥穽

どのような創作物も、さまざまな角度から解釈することができます。

たとえば映画であれば、美術の一種として構図が良いとか色合いが良いとか言うことができます。「この当時、何々という機材が開発されたので、その効果が遺憾なく発揮されている」と技術面を指摘することもできます。

また「骨太な男性ナルシシズム表現に心が震える」ということもできれば「男の自己満足なんて笑っちゃうわ」と言ってやることもできます。

BL・二次創作BLも同様で、経済効果を評価することもできるし、文学史上に位置づけることもできるし、ゲイリブ運動の進展具合と比較することもできるし、女権伸張との連動性を見ることもできます。

女性のやることなんですから、女性の進学率や結婚率との関連性というのは研究テーマになり得ます。

もし女性が男性から「女なら長谷川町子みたいに主婦としての生活実感のこもった漫画を描けばいいだろ。それ以外は出版を認めん。印刷所にも協力しないように通達しておく。創作活動の前にまず見合い結婚しろ」と言われて「はい、そうします。独身のまま外人の美少年を描きたいなんて言ってごめんなさい。殴らないでください」と答えていれば、二次創作BLどころか二十四年組作品も無かったのです。

という具合に「今回は女権伸張との連動性を見ることにした」という時に「同人はフェミじゃないのよ」と言って来るならば、「あなたの研究を私の権限で禁止します」という意味になります。あなたに何の権利がありますか? 何に基づいて他人の言論の自由を侵害するのですか?

「そ、そうじゃないけど、ただ同人の先輩が同人はフェミとは別だって言ってたから……」ではお話になりません。先輩はなぜそう言ったのか考えてみましょう。

まず、二次創作BL同人が何よりも恐れるのは著作権問題の露見。すなわち告訴です。

次に「女性による性的表現」と言えば、一般男性の注意を引きつけてしまい、同人自身が実在女性としてセクハラ被害を受けやすくなります。

また「最初から金目です」などと言えば、私もおカネがほしいという出展希望者が増え、ライバルが増えることになります。

また男性に向かって「巨乳趣味は変よ」などと批判的なことを言えば「お前のこれはどうなんだ。こういう作品もあるよな?」と検閲されることになるでしょう。

さらに「私が同人やらざるを得ないのは母親がトラウマになっているせいよ」と言い訳すれば、「すぐに二次創作BL同人活動を中止して医者へ行け」と言われることになるでしょう。

依存症を克服する第一歩は、それをやめることだからです。

同人が自分を憐れみ、やむをえなかったと言い訳するのであれば、むしろ二次創作BL同人活動を法律で禁止し、問題を抱えた母子をサポートし、再発を防止するのが良いことになります。

そして当事者は婚活し、トラウマを克服することと家事・育児に協力してくれる夫を見つけましょう。「トラウマを克服できたら婚活する」という段階的進化論は時代遅れです。

「婚活を通じて、世の中にはさまざまな男女がいることを知り、母親のイメージだけにとらわれていた自分自身を否定する」という努力の経緯そのものが、トラウマを克服するということです。

【自立支援の時代】

ひと昔前なら「私がBLなんか読むのは男性中心社会が横暴なせいだから仕方ないんですよ」という被害者理論が通用したのです。「仕方ないなら仕方ないですね」で終わりにしてもらえたのです。

けれども「自立支援」という発想が主流になってしまったことと、著作権意識が飛躍的に高まったので、「母親の抑圧を逃れるために他人の権利品に手を出さざるを得ない」という同人がいるなら、二次創作同人活動を法律で禁止して、問題をかかえた母子をサポートするのがよい、という結論になってしまうのです。

これに気づかなかったフェミニズム批評は、二次創作同人活動の鬼門なのです。

じつは1960年代には、企業における女性の定年が30歳だったので、ほんとうに25歳までに結婚相手を見つけておかないと生きて行くことができなかったのです。

それを憲法が定めた男女平等に反するといって裁判に持ち込み、闘い抜いた人々にとっては「ちゃんと憲法があるのに、男が勝手に決めちゃうから悪い」と言うことができたのです。切実な実感だったのです。

けれども、BL論というのは、すでに1989年に「1.57」という数字が発表された後で盛んになったものです。その時点で女性の結婚年齢の高齢化・少子化が決定的だったのです。

もう「早くダイエットして25歳までに男をつかまえなきゃ」という時代ではなかったのです。

そういう時代に、なぜ少女たちが普通の自立の道を確立せずに同人誌即売会で法律的にあれなことばかりしているのか? というのが本当の議題だったのに、ひと昔前を知っている大人の評論家・社会学者たちは、勘違いしたのです。

自分の少女時代(1960年代)の話に夢中になってしまい、1990年代の自立を目前にした少女(および18歳以上の若い成人である大学生)のことを忘れていたのです。

それを少女および大学生のほうで真に受けてしまい、男性中心社会が悪いから資格試験の勉強しなかった(だから就職できなかった)と主張しても、無駄なのです。

まことに残念ながら、自立支援の時代には、BL論の「甘えの構造」も否定されるのです。

【先輩たちの教訓】

というわけで、あらゆる点から見て、二次創作BL同人が自分から「私、二次創作BL同人やってます(または、やってました)」と名乗りを挙げ、裏事情を暴露することは、百害あって一利なしなのです。

だから、二次創作BL同人は自分をフェミの仲間だと思って議論に参加しなくていいし、情報提供してやらなくていいし、男性に向かって文句を言ったりもしなくていいのよ、とにかく自分から目立つようなことしちゃダメよというのが先輩たちの意図です。

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