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1991年5月、黒澤明『八月の狂詩曲』黒澤プロダクション

わらべは見たり、野なかの薔薇。

脚本:黒澤明 ゼネラルプロデューサー:奥山融 プロデューサー:黒澤久雄 原作:村田喜代子「鍋の中」(文藝春秋社版)より 演出補佐:本多猪四郎 アソシエート・プロデューサー:井上芳男・飯泉征吉 撮影:斉藤孝雄・上田正治 美術:村木与四郎 照明:佐野武治 録音:紅谷愃一 効果:三縄一郎・斉藤昌利 衣装:黒澤和子 音楽:池辺晋一郎 題字:今井凌雪(雪心会) 蟻指導:山岡亮平(京都工芸繊維大学応用生物学科) オルガン調律:金井賢二 
ヴィヴァルディ「スターバト・マーテル」:ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団 カウンターテノール:ジェイムズ・ボウマン(ポリドール株式会社 原盤:オワゾリール1976/デッカレコード)

この国の八月は追悼の季節。俺もこの世を去る前に、言っておかねばならぬことがある。

学童が過去の自分なら、青年男女は未来の象徴。素人に近い若者たちの表情をじっと見守るカメラ使いは、ああ黒澤も歳を取ったなァ……と感じさせ、もう序盤で目頭が熱くなることでございます。

確かに『乱』でひと区切りついちゃったわけで、ここへ来て「男性の不在」を撮りきるという離れ業なのでした。

松竹であることに「おや」と思いつつ、小津さんや木下さんの作風に似ているようでもあり、意識しているとしたら最後の洒落っけなのかもしれません。(この時点では、もう一本撮れるとは思っていなかったことでしょう)

そしてやっぱり、妹の力というより姉の力のようです。場面ごとのまとまりがよく、プツッと切れる編集は、短篇集のような味わいでもあります。DVD特典映像では、ゴッホ感あふれる画コンテを拝見できます。……まさか建てちゃってないだろうな、この家。

(やっぱり建てちゃったようです)

諷刺魂は老いてなお盛んなようで、アメリカの思惑を勝手に解釈して気を回す日本人たち。受け継がなくてよいものまで受け継いでしまっていることに当人たちは気づかないのです。リチャード・ギアが日本語しゃべってる~~。(いい人だなァ)

思えばドーリットル隊が飛来した時から、この神州は空から見られる視線を意識し続けていたのでしょう。

月光は人の心を洗い、昨日の敵は今日の友。人は誤解を解き、心を通わせることができる。アメリカ人のお陰さまで晩年の制作が可能になった黒澤から、これは感謝の贈り物なのでしょう。

【以下、詳細に踏み込みます】





小津が好んだ生活喜劇タッチと、あまりにも重い要素が共存しているので、観る人もとまどうわけですが、例によって「どちらの見方が正しい」ということではないと思うのです。

おとなは、いろいろなことを胸にたたんで、表面的には穏やかに暮らしているのです。子どもたちは自分だけ原爆のことを知ったような顔をして、お気楽そうな長崎市民や観光客を批判するけれども、その中にも「うちのおばあちゃんも原爆症」という人がいるはずです。「私自身もいつ発症するか分からない。だからこそ今は子どもと楽しく過ごしている」という人がいるはずです。

それを黒澤は行間に落としこんでしまった。子どもたちも、いつか気づくのです。その「いつか」が重要なのです。過去を描きながら、じつは未来を撮っている。

印象的なのは、おばあちゃんが「白いものをかぶればいい」と言いながら、自分ではなく子どもたちにかぶせようとすることですね。

黒澤も、小津も木下も、さらには宮崎駿も男性だから、婦人の守り育てる本能に期待する。最後はおっかさんに頼むというところがあるのです。

そのおばあちゃんが、なんで今さら走り出すのか。「あの人に教えてあげなくちゃ」と思ったのでしょうね。家と子どもを守る人が、それを忘れて走り出すとき、心は恋する娘に戻っているのです。薔薇よ、薔薇よ、小さな薔薇よ。

で、クラークさんだ。彼は、あくまで「ハワイの日系人」であって、ワシントンの要人ではないのです。もし戦争を知っている世代だったら、強制収容所に入れられていた側なのです。それが日本人の心に寄りそうことができなかった。

心のどこかに、アメリカで大成功した者(の家族)という慢心があって、呼びつけてもてなしてやれば喜んでもらえると思い込んでいた。本来なら、まずお墓参りして、それから「よかったらおいでください」とお誘いするべきだった。順番を間違えてしまった。

クラーク父は、それに気づくことができる人だった。礼節を知る人であることが分かったから、ばあちゃんも「兄さん」として認識したのです。

あまりに印象的なラストは、観客をなめとんのか? ものすごくきついブラックジョークなのか? い、いやでも今さら何の諷刺?

これも参っちゃいますが、あるいは監督としては「もう言いたいことぜんぶ言っちゃったから、あとはいいや~~」と豪快に笑い飛ばしたのかもしれません。国敗れて山河あり。一切衆生悉有仏性。なお、編集技はすごく細かいです。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。