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1957年4月、小津安二郎『東京暮色』松竹

えろう冷えて来ましたな。

脚本:野田高梧・小津安二郎 撮影:厚田雄春 美術:濱田辰雄 録音:妹尾芳三郎 照明:青松明 音楽:斉藤高順 衣装:長島勇治 監督助手:山本浩三 撮影助手:川又昂

小津的オールスターでお送りする、もはや戦後ではないトーキョー・トワイライトすみっこ暮らし。うはウナギ屋のう。上野発の夜行列車があった頃。オフィスに帽子掛けがあった頃。ケータイはなかった時代。パチンコは立ったまま弾くものだったようです。カメラは例によって床に座り込んだ犬の目線で。(猫かもしれない)

小津映画は観ているうちに後ろ足で耳のあたりを掻いてみたくなったりするのです。バアのセットに既視感を覚えつつ。(※逆です)

昭和32年現在、雑司が谷らへん。主権は回復したけれど、翻訳や英文速記で糊口をしのごうとする日本人たち。例によって劇中効果音か心理描写か意味不明な高順音楽をそこはか~~となく響かせつつ。(じゃっかん邪魔)

珍しく原節子が子持ち。あら笠智衆が靴下留め使ってるわ。(最近じゃ珍しいですよね) 電化製品としての炬燵が出回り始めたようです。

二本の線路が象徴するお話は『晩春』の娘が出戻って来たといったところのようで、やぶをつつくと蛇が出たりもいたします。親父もちょっと察しが良くなったようです。

小津さんもずっと同じことをやってきた人で、独特の会話の撮り方もだんだん手際がよくなって、つながりが自然になって来たのが分かります。笠智衆がだんだんうまくなって来たのも分かります。信欣三のダメ文人っぽさが出色です。

和服の姉と洋服の妹の姉妹物語も小津的定番ですが、ここんちの妹は新時代ぶって、自由ぶって、じつは自己管理できない小娘。孤独じゃないすよ、こんなもん。周囲に甘えてるだけです。

ひがむ女ってのは本当にめんどくさくて、女の子を育てるのはむずかしいというのは小津さんの実感なのでしょう。大学という言葉も聞かれますが、女のほうがこのレベルでは「男に女の生き方を教えてもらう必要はない」とか言えた義理ではございません。

【以下、詳細に言及します】





ほんとうは、妹の不幸にはいろいろな要素が複合して関わっていることを、野田・小津の脚本はちゃんと描き出しているのです。大学を出たばかりの若い女は世間を知らず、見た目の可愛い男に参りやすく、周囲はおもしろがっているだけ。

けれども、そのおもしろがっている人々も、おそらく家庭で孤立している。あるいは家庭を持つことができていない。『早春』でもうどんパーティー開いてましたが、東京は地方から上京して来た人々の集まりだから、自由の名のもとに孤立しやすいのです。

姉のほうは自分自身が母親にこだわってるもんだから、それらをすべて「お母さんがいなくて寂しかったから」という原因探しに落としてしまう。

でも、社会人にもなって家族の絆に子どもがこだわるようなら、社会が「母親が家にいてやって」と言うのは当然です。それが子どもの心に寄りそうということですからね。

女性自身が「お母さんのせいよ」と言っているかぎり、女性の自立はありません。

という具合に、それぞれのキャラクターに一貫した実在性があるのが小津さん流。逆にいえば、まだステレオタイプの寄せ集めだけでお話が作れた時代。そのまとめ方もうまくなったようです。基本的には、たぶん今日も繰り返されている東京人間模様。

なお、杉村春子のパリッと気の張った働く女らしさはいつものことですが、どスッピンに近い山田五十鈴の苦労して来た感がいいです。……のんちゃん、誰の物真似すか。(いますぐウィキペさんへGO)


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。