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小津安二郎『東京暮色』再考。

映画作品鑑賞後の読者様を念頭に、物語の詳細に言及して参りますので、未見の方はご注意ください。





小津があの作品に自信があったというエピソードから考えると、彼自身は「若い成人女性の人生が困難であることを訴え、社会批判した」というつもりだったのかもしれません。若い女性から共感が得られるつもりだったんじゃなかったか。

ただし、溝口健二『祇園の姉妹』があの台詞でバサッと終劇した潔さにくらべて、姉の行動というエピローグをつけ足してしまったので「女は家庭」という結論になってしまったのです。女性観客の一部は納得し、一部は憤慨する。女性同士のジェネレーションギャップは明白だったろうと思います。

けれども、小津自身は、若い女性が見合いをいやがり、既婚夫人でさえ家庭を守るだけということに飽きていることを分かっちゃいるのです。杉村春子を通じて、商売を成功させ、軽快なフットワークで京都と東京を往復する女性を描いている。彼の作品には、若い女性が事務員などとして勤労する姿も、かならず描き出されているのです。

だから、彼の真意がほんとうに「女は家庭」だったかどうか、女性観客が「小津なんて奴は映画の神様みたいに言われてるけど、ただの分からずやで、まるでうちのお父さんよ!」 と、トラウマを刺激されて憤慨するべきかどうかは、やや微妙です。

一般論として、小津作品というのは、映画が国民的娯楽だった時代に、ひじょうに多くの観客を納得させることが重要だったわけです。男性キャラクターについても、女性キャラクターについても「こういう人、よくいるよね~~」という感想を持ってもらうことが重要だったのです。つまり、人間性描写が最大公約数なのです。

一部の女性は「私はこんなバカじゃないわ」と憤慨するでしょう。でも、身近に似たような人がいるでしょと問われれば「まァ、ほんと言うとうちの妹も……」とか「職場の女の子が……」ということがあるだろうと思います。

それに対して監督自身は何を言おうとしているのかというと「お父さんは、いつもきみたちを心配しているよ」ですよね。

それに対して、それぞれの女性が「私はこんな生き方をしない」と決めればよいことであって、そういう感想を言ってもいいのです。

かつての女性は「ステレオタイプを押しつけないでほしい!」という被害者意識でした。じゃあどうしたいのかを言うことができなかった。「だって……」と言って、口をとがらせたきり、後が続かない。そういう人、いますね? あなたではなくても。他人を変えることはできないから、自分がどうするか考えればいいのです。

「他人を変えることはできない」とは、自分で気づいて変わるほかないということなのです。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。