少年漫画を読んだだけで、男になったと思えた時代。~1980年代の新左翼ごっこ

  18, 2017 11:04
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1980年代には、先にアニメ番組に基づく二次創作同人誌を読んでしまい、後から原作漫画を読むようになったという女性が、ほんとうに存在したのです。

当時は「女性が少年漫画を読むことはおかしい」と本気で思われていたのです。だからこそ「それまで少年漫画雑誌を講読していなかった娘さんが、先に二次創作BLを読んでしまった」ということが起きたのです。ね?

だから、急に若い女性が少年漫画を読むようになったことが、評論家・社会学者・マスメディアの関心の的になり、じゃっかん面白半分に論争の種になったのです。

なぜ、今どきの女の子は、お姫さまやお嫁さんが出てくる漫画を喜ばずに、男ばかり出てくる漫画を読むのか? 彼女たちは誰に感情移入しているのか? ほんとうは男なのか?

当時は「女の子が男とおなじことをするのは当たり前」と思われていなかったのです。男とおなじことをする女の子は「女を捨てた」と思われたのです。もう二度とスカートをはかないとか、男性とお付き合いしないとか、ぜったいに少女漫画には戻らないとか。そういうふうに思われたし、本人もそう思ってしまったのです。

じつは、それが1980年代に特有の現象なのです。

1970年代に二十四年組作品を読んでいた人々は、それを市販雑誌上で他の漫画家による少女漫画の前後に続けて読んだし、シリーズ中に少女キャラクターが中心となる回があったりもしたのですから、両方読むのが当たり前だと思っていたのです。

けれども「フェミニズム」が急成長した1980年代に、二次創作BLをきっかけに「もう少年漫画しか読まない」という人が目立ってきて、おとなの評論家たちのほうが釣られたのです。

けれども、1990年代には、1960年代生まれで1970年代を知っている少女漫画家(の原作)によって、美少女戦士が戦う相手として美青年同士で恋愛する人々が登場するという作品が大成功を収めたのですから、少女読者・視聴者は両方いっぺんに鑑賞したのです。

だから、BLの排他的選択、少女漫画と少年漫画の二者択一という行動は、1980年代の二次創作BL同人および購読者(の一部)に特有の現象なのです。

1980年代だって、少女向け市販雑誌にBL的な作品と少女漫画が同時連載されていたのですから、一般的な読者は両方読んだのです。

二次創作BLファンの一部だけが、世界同時革命ごっこしたのです。「女性が少年漫画を読むことはおかしい」という先入観を前提に、それにレジスタンスしているつもり。

「もう男に遠慮するな」をモットーに、少年漫画を読んでは片っ端から二次創作BLにしてしまうことを「女性の自由」と称した。

だから、この時代の作風は、画力が低くて描きたいことを描けてないくせに、内容だけは暴力的なのです。時限発火装置付き爆弾よりも簡単に作れる火炎瓶みたいなものです。過激派ごっこです。著作権意識が低かった時代の流行の一種だったのです。

少女たちがロールモデルにしたのは、もちろん当時のおとなのフェミニストですが、彼女たちは新左翼の時代を体験して来た人々でした。

つまり、新左翼も、フェミも、ちっちゃいフェミも、BL論も、冷戦体制の産物だったのです。左か右か、赤か白か、ソ連につくかアメリカにつくか……。

つねに究極の選択をせまられ、どちらかにつくと言わなければ両方から裏切者と呼ばれてしまう。そういう強迫観念に支配され、仲間うちでは「みんな一緒」の同調圧力で自他を縛りつけ、対立集団に向かって激しい敵愾心を燃やすことを自尊感情と混同し、自分が急にえらくなったという誇大妄想に酔っていた。モットーは「みんなやってる」と「みんなゆってる」。

民主政治と一党独裁を混同した赤色革命ごっこ。個としては自信のない若年者に特有の、群れをなして騒ぎたい気持ちの現れです。

それが続いたのです。1989年11月まで。

ほんとうに、そんな時代があったのです。男性から自由になろうと言いながら、男性が構築した革命の構図にすっぽり収まっていた女たち。

(なお、トランスゲイ説はベルリンの壁が落ちてから約十年後に登場したので「いまさら何言ってんだ」と驚いたものです)

【どっちも情報が古い】

現代では、もちろん男女間のハードルが下がりました。息子・娘と一緒に少年漫画(を原作とするアニメ番組・映画)を応援しているお母様も多いことと思います。たとえ200万部を割り込もうとも。

彼女たちが、いわゆる同人の作品には興味を持たないとしても、なにも男性読者にゴマをするためにBL嫌いを気取っているというわけではありません。

ごく単純なファン心理として「イメージを壊されたくない」と思う。また「何々くんは私のものよ」と思う一般女性にとって、ほかの男のものだという話は困る。いやだわと思うに決まっている。それだけのことです。

同人誌即売会の中で、自分と同じBL趣味の女性と付き合っていた間だけ「世の中の女の子はみんなBLが好きよ。二次創作が目当てで少年漫画を読むに決まってるのよ」と思うことができたのです。

逆にいえば「少年漫画を読んだり、少年向けアニメのファンだという女は、みんな二次創作BL目当てで同人誌即売会に通っているにちがいない」と思い込んでしまい、反感を持つという男性は、その人自身が同人誌即売会の中のことしか知らないだけです。

どっちも情報が古いのです。

インターネットは同人誌即売会ではありません。一般社会も同人誌即売会ではありません。一億二千万分の二十万は、ほんの少数派です。

その少数派なりの表現の権利が守られるべきである、そもそも基本的人権として差別されたり怪我させられたりするべきでないという話と、「過激な二次創作BL同人と一緒にしないでという女性もいる」という話は両立します。ここ重要です。

「過激な二次創作BLは苦手だ(女はみんなBLが好きだとか勝手に決めないで)」という主張は、だから二次創作BLなんか規制しちゃえばいいのよという主張と、イコールではありません

勝手に混同して「やられる前にやれ」とばかりに先制攻撃する人がいると困るのです。かえって本当に「同人はやばい連中だ」という印象になってしまうからです。

「あれか、これか」の冷戦時代は約30年前に終わりました。もう学生運動ごっこしなくていいのです。興奮しやすい人は、お薬を飲んで就寝してください。勤務形態が許す限り、朝日は浴びたほうがいいです。(体内時計が調整され、体調不良・精神的落ち込みを防ぎます)

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