成田美名子『花よりも花の如く』に見る女心、男心。

  25, 2017 11:01
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シリーズ序盤のエピソードに基づく部分的考察。

じつは能楽師というのも舞台上の男である以上、女性客から「顔で選ぶ」とか「若さで選ぶ」とか(本人に聞こえないように)言われちゃう可能性はあるのです。

実際に『花花』に登場する若手能楽師たちは、女流漫画家自身の好みにしたがって、女性的(少女漫画的)な顔立ちの「イケメン」として描かれていますね。けれども劇中には、女性ファンがお舞台そっちのけでキャーキャー騒ぐ描写がない。これは読者が真似して実際の能楽堂で騒ぐのを防ぐためでもありますけれども。

だから主人公は、自分が女性から好奇の眼で見られる可能性に気づいていない。それどころか女性ジャズシンガーが「歌唱力よりもセクシーなドレスを着てくることを要求されるのが屈辱だ(あんたたち男はいいわね)」という発言に「いままで気づかなくて悪かった」というふうに胸を痛めてしまう。

「そんなの女だから当たり前だろ」とは言わない。「俺だって女どもの視線に耐えてるんだぜ」とも言わない。

女性向け雑誌上の連載ですから、女性フレンドリーな男性キャラクターなわけです。女心を分かってくれる。一緒になって傷ついてくれる。『恋重荷』で悩んだ時も、論点は女心を理解することでしたね。

おそらく男性の能楽ファンが読むと不思議な感じがすることでしょう。いかにも初心者らしい駄洒落(20kmの地謡)などは微笑ましく読み飛ばすとしても、根本のところで、これは能楽の話ではない。

演技を通じて「女心を理解できるようになったイケメン」という理想の男性像に対して、女性(作者・読者)が感情移入し返しているという構図。男性読者は、かやの外です。

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