1993年4月、黒澤明『まあだだよ』大映・電通・黒澤プロ

  26, 2017 11:02
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あたしは昔の唄が大好きだ!

原作:内田百聞 脚本:黒澤明 演出補佐:本多猪四郎 撮影:斉藤孝雄・上田正治 美術:村木与四郎 照明:佐野武治 録音:西崎英雄 音楽:池辺晋一郎 衣装:黒澤和子 効果:三縄一郎・川崎清 題字:今井凌雪

わが良き友よ。めぐる日月よ。ここに始まり、ここに至る。酒は月桂冠、男は康快。

アメリカの友人たちには足を向けて寝られませんが、最後を支えたのが日本人で良かったと思います。芸術文化振興基金助成事業でもあるようです。

いちおう原作付きなわけですが、これほど劇中人物と一致して、この世を離れつつある自らを撮りきった監督も少ないでしょう。

黒澤映画に見られる男性ナルシシズムとは言うも愚かですが、1993年の世にこれを問うことのできた度胸と自信は、今なお日本中の男心を酔わせてやまないと信じます。

冒頭からカメラワークの魔法にかけられて、吸い込まれるように見つめる画面はコメディタッチですけれども、その明るさゆえにこそ、早くも目頭が熱くなって参ったり致します。

よく探して来たのか、よく建てちゃったのか、街並みが美しい昭和18年描写は、当時を知っている人でなければ出せない空気感に満ちているように思われます。

圧巻は戦後描写で、庭園作りの一種に「廃墟趣味」ってのがありますが、この美術。建てるよりむしろ難しいんじゃないか?

『素晴らしき日曜日』では、ロケ地の各所に残る瓦礫がリアルタイムだったわけですが、ここへ来てこの執拗な再現。

戦後の狂騒的な人間模様を描き続けた黒澤は、じつは時代劇を撮っても太平洋戦争映画を撮ってないわけで、『八月の狂詩曲』でも戦中の光景は再現せずに済ませたのでした。

戦前を知っている人にとって「終戦」後の風景は、強い痛みをともなって、心の深いところに格納されていたのでしょう。

初のカラー撮影という武器を得た『どですかでん』では、勢いあまってやや歪んで表出されたような気がしますが、ここへ来て「その中にも方丈の幸せはあった」と、価値観の転換を得ることができたようです。

夫婦がうまく行っている様子も、あまり描かずに来た人ですが、『八月』でヒロインに与えてやることのできなかった暮らしを描くことができたとも言えるでしょう。香川京子は歳くっても綺麗。

音楽性と幻想性も健在。最後まで黒澤流。仰げば尊し、わが師の恩。


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