1937年3月、フランク・キャプラ『失はれた地平線』(Lost Horizon)

  26, 2017 11:00
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Yes, I believe it. Because I WANT believe it.

第10回アカデミー賞室内装置賞、編集賞。大ロケーション、大特撮。シャングリ・ラ居よいか住みよいか。

オリジナルが経年劣化したので世界中に散らばったフィルムを掻き集めて復元。アメリカン・フィルム・インスティテュートのど根性。

という説明書きが本篇開始前に表示されるわけで「なんでそこまで」と思うわけですが、本篇開始まもなく納得。投入された技術も資金も熱意もセンスもすごい。豪華美術、神業合成。1937年ですよ。

(アメリカと戦争したくなくなる映画と言うべきか)

音楽だけはやや「古い映画」らしさを持っておりますが、画のほうはものすごく洗練されております。編集賞の栄誉に輝くモンタージュの手際はデジタル時代にも珍しいほどの鮮やかさ。

あらすじ言ってもどうにもならないお話なので、これはとにかく「観る」快楽だと思うといいです。繊細かつ大胆な監督の采配ぶりに酔いましょう。

と言いつつ、早口でまくし立てる人々それぞれのキャラ立ちの良さもアメリカらしいところです。「男には仕事が大事」という意識はプロテスタンティズムなのかもしれません。

主演のロナルド・コールマンは口髭のダンディ。

日本には狐や蛇など魔法を使う小動物がいて、村はずれで人間に不思議な体験をさせちゃうわけですけれども、欧米人は具体的に長い旅をするのでした。

個人的に行ってみたい土地というと、エルロンド殿のリーヴェンデールですが、他に連想したのは『地獄の黙示録』『パピヨン』『2001年宇宙の旅』、溝口『雨月物語』、黒澤『夢』。竹宮恵子『地球へ…』も想起されたり致します。

キリスト教全盛時代には『薔薇の名前』でも議論していたように天上世界を夢見ていたわけで、西へ向かって地続きに行くと「どんな夢も叶うという」世界があるというのは、ケルト時代から受け継がれた地下水脈だったのでしょう。

キリスト教の独裁が効力を失いつつあり、やがて「アクエリアン・エイジ」へ通じて行く、文化的解放の第一歩のような作品なのかもしれません。

でもタイトルを考えてみると、本来は「見出されたシャングリ・ラ」であるはずで、失われた地平線というのは、東へ向かうはずだったことを指しているのです。(たぶん)

黒澤ならブラックな落ちをつけたかもしれないお話で、それに較べりゃ最後の台詞は明るいようですが……じつは、リアル戦間期だったことを考えると、かなり鋭い(アメリカでなければ言えなかったような)皮肉・社会批判性も持っていたように思われます。

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