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県庁所在地でだけ売れていた人。~コミケのヴィジュアル化の歴史

インターネットの話をね。していたのです。若い人がTPPに関連して「好きな二次創作が強制削除されちゃったら悲しいな」って言っていたから。

「そういうのは地方在住のおカネのない若い人々にとって、ささやかな楽しみだから強制削除する必要ありませんよ」って。

そしたら「同人誌即売会は中央だけじゃなく県庁所在地でも開かれていたんだよ!? 田舎に住んでる子と一緒にしないで!」って騒ぎ出しちゃった人がいたのです。

「自分は田舎者と呼ばれた被害者だから弱者の声を挙げていく!」ということのようです。被害妄想です。しかも差別です。

競争的ライフスタイルの典型で、周囲を敵と見なす人は、差別意識旺盛な一方で「自分のほうが攻撃される(仕返しされる)」という被害妄想も強いのです。

それが「M事件のせいで売れなくなった」って言うもんですから、ああ……なるほど。

県庁所在地でだけ売れていた人なのです。「自分は県庁所在地のイベントで人気者だった」って自慢したかったのです。女性向けエロス表現が少なかった時代に、近在の中高生にだったら売れていたのです。

生活を成り立たせるために出版社向けに少女漫画を・即売会向けに二次創作を・委託販売用にオリジナル自費出版を…と戦略的に描き分けるほどの才能ではなく、自分の趣味を兼ねて山も落ちもない二次創作BL小説だけ書いていれば、学生の小遣いには充分で、自己満足できたのです。

それがM事件の後(=1990年代)には地方で売れなくなったし、中央では相手にされなかったのです。

【ヴィジュアル化の歴史】

「M」は黒バス犯と違って同人誌即売会そのものを襲ったわけではありませんから、事件のせいで売れなくなったということはないのです。

地方で開催されていた小規模な類似イベントが開催されなくなったとしたら、その主因はバブル崩壊後の地方経済縮小によって、すでに少子化の影響が出つつあった(つまりもともと人数の少ない)世代の若者が東京に一極集中したことです。

(第二次ベビーブーム後に出生数が激減した1975年生まれが18歳になったのは1993年)

同人としては、その時点で中央へ打って出ればよかっただけのことです。

けれども、1980年代の間にアニメ産業そのものが進化していました。それにともなって、コスプレファンと声優ファンが増えました。また印刷技術の向上とバブル景気によって漫画同人誌がフルカラー化しました。さらに1985年頃にCLAMP・高河ゆん等がプロデビューしたことによって「即売会を通じて漫画家になる」という夢を持つ人が増えました。

コミケの歴史は、漫画評論・アニメ評論・小説などの文芸が漫画同人会と混在していた時代から、漫画専業化・フルカラー化・ヴィジュアル化して行った過程そのものです。

しまいにゃ発光体を振り回すようになりましたが、あの美しい光の軌跡は、もう絶対に文芸同人からは出てこない発想なのです。ヴィジュアル時代の象徴です。

いっぽう「私たちのほうが栗本薫よりも売れている」というアンフェアな優越感に浸っていた集団主義の私たちさんは、小説を書いていたのです。フルカラー漫画同人誌を出展していたなら「竹宮恵子よりも売れている」と言ったでしょう。

「私が書いていたのは甘っちょろいハッピーエンドなどではなく激しい拷問だ」と変な自慢もするんですが、それはね……。田亀源五郎でさえ描くことをめんどくさがるほどのものです。それを女だてらに描きこなす実力があったなら、プロ漫画家になれてます。

ようするに、それを文章で書き表していた小説派なのです。

けれども、バブル崩壊、少子高齢化、一極集中、アニメ産業の隆盛、コスプレと声優ファンの増加、印刷技術の向上による漫画誌のフルカラー化。

あらゆる要因によって、地方都市における小規模イベントと、小説オンリー誌が成り立たなくなったのです。Mのせいではありません。

これが当方の社会学。はばかりながらオリジナルです。他人のオタク評論を書き写したものではありません。

いかに敗戦国とはいえ、自分の頭を使うことを諦めてはいかんです。私にできるなら、きみにもできる。せめてこのくらいは考えようという一例です。

人間の脳は、三十歳を過ぎると、物事の関連性を理解できるようになるのだそうです。だから、三十歳過ぎたら「自分が二十歳くらいの頃に夢中になっていたあれは、なんだったんだろう」と考え直してみましょう。

なお、「物語の好みの変化」という要因もあります。

【競合小説ブランドの成立】

もともと小説を読む人というのは読解力があるわけですから、年齢が上がるとそれなりの読み応えを求めるようになるのです。

いっぽう、高校・大学時代に友達に誘われるままに即売会へ行って、おすすめされるままに「アニパロ」を買っていたというタイプは、卒業するとふつうのテレビドラマやレディコミに移って行った(または戻って行った)可能性が高いです。

けれども、地元就職しても自分で一般書店へ行ってBL的なものを探したという人は、むしろ1990年代に入ってから「BLといえばアニパロだと思っていたが、ジュネ系というものがあったことを初めて知った」という可能性も高いです。

でないと栗本薫作品の再版(文庫化)など、リバイバル的な動きの説明がつかないのです。

特殊な趣味の仲間は「そっとしておいてほしい」という気持ちが強いものですから、題号は挙げませんけれども、事実として読みきり文庫の中から優れた心理描写を含む青春小説といってもいいシリーズが成立し、長い人気を得たのが2000年前後の状況でしたね。

決して「漫画の時代になったから『JUNE』が終わった」ということではなく、むしろ競合し得る小説ブランドが成立したのです。

それを読みながら育った世代から「1980年代ふう過激路線にはついて行けない。女のルサンチマンを表しているのできもち悪い」という声が挙がるようになったのが2010年代です。

バブル崩壊後の癒しブームと自己責任論の中で成長した世代は「世の中のことはなんでも男のせいよ。私が同人始めたのも男のせいよ。どうせ男は私の体にしか興味ないんだから、こっちも男の体にしか興味ないことを見せてやるわ。復讐するのは女の弱者特権よ。それが売れなくなったのも男のせいよ」という責任転嫁論を、自分より年上の女の我がままと感じるのです。

もし、あなたが自分の母親を「時代遅れで我がままだ」と感じていたなら、残念ながらあなた自身がそういう女になってしまったのです。

価値観のちがう世代が育ったことを認めましょう。また「オールドファンの復権」ということもあり得ます。二十四年組は今なお健在です。

「でも、過激なアニパロは今でも人気よ!」というなら、それに合わせて、いわゆる「ジャンル」を乗り換えながら書き続ければよかっただけのことです。いつでも出展に再挑戦していいのです。ペンネームを変えたって構いません。委託販売・通販という手もあります。

「同人は誰もキャラなんか好きじゃないよ! 最初から金目だよ!」と言うなら、キャラクター名をオリジナルに差し替えれば出版社への投稿作品として通用します。

それらの方法をまったく試さなかったというなら、最終的な問題が見えて来ます。

【元祖二次元コンプレックス】

じつは出展していた当時に流行していた特定原作の特定キャラクターが好きで、その子のことだと思うとどんどん書いていけたのです。

それが時代の変化によって赤字を出した時「つまんないからやーーめた」と投げたのです。一回の挫折に弱い人。口先では「BLはビジネスよ」などと言いながら、ビジネスライクに行動できない人です。

もともと他人の影響を受けやすく、軽い気持ちで二次創作同人活動を始めてしまった人は、他人の口真似ばかりして「同人はフェミとは別」とか「BLはただのビジネス」とか「キャラ愛などない」とか言うんですけれども、自分の姿が見えていないのです。

つまり、自分自身から目を背け続けているのです。

ゲイバーにご迷惑おかけするよりもコミケに戻りましょう。池袋か紀伊国屋に行ってみましょう。ミクシィでもいいです。中年の独身BLファン女性のお友達が見つかるはずです。特別養護同人ホームの実現に尽力するのもいいかもしれません。

(同人活動で老後資金を得ることができたとしても、ふつうの老人ホームでは二次創作や即売会の話ができる人がいないというのは寂しいものですから、同人ホームってのは良いアイディアです)

なお「薄い本」の処分方法ですが、ダンボール箱に紙類を詰めて送ると開封せずに箱ごと巨大シュレッダーにかけてくれるというサービスがあります。もし必要なようなら検索してみましょう。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。