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BLの鑑賞ポイントと、規制論の論点。

まず、BLの鑑賞ポイントは「女役を演じる男の魅力が分かるようになった」以外にあり得ないのです。暴露話じゃなくて論理的帰結。

だって、女性キャラクターに感情移入できないからって、男性キャラクターに感情移入できるとはかぎりませんね? 「男同士なんてきもち悪い」とか「少年が可哀想」と思った瞬間にアウトです。

また自分自身が性的な「トラウマ」を抱えており、男性の肉体を想像した(絵に描かれたものを見た)だけで発作が起きるということであれば読めないはずです。

だから「実際にはたいした問題を抱えていない女性が女役を演じる男の魅力が分かるようになった」という嗜好の問題です。

その「分かるようになった」ことを「目覚めた」という言葉で表現する人もいますね。

何かの代償として与えられたからといって、まずいもんなら食わないのです。暴力や校則によって強制されてるんじゃないんですから、それ自体を面白いとか魅力的だと思って読み進めて行くことができるのでなければ、炎天下に行列し、カネを出すことはないのです。

だから「なぜBLなのか」という問いに対して、最も単純な答えは「好きだから」であるはずです。

「なぜ好きになるのか」を究明しようとして、理由を考えたのが評論家・社会学者たちですが、そもそも、なぜBLを好きな理由を解明しなければならなかったのか?

【規制論の論点】

法律というのは国民活動の全てをあげつらって「これはいいが、あれはダメ」と、丸バツ式に書いてあるのではありません。国民は基本的に自由であって、みずからの嗜好にしたがって好きなものを買ったり、自主制作したり、それを売ることによって生計を立てたりしていいのです。

けれども、好きであることによって他人および本人の被害があまりにも大きいと、国家権力によって制止することになるのです。

たとえば「実在児童を虐待することが好き」と自己申告されて「好きならいいよ」と答えるわけには行かない。「覚せい剤が好きだからどんどん体が壊れていく」と自己申告されて「好きなら仕方ないねw」と笑って済ませる訳にはいかない。

だから「それを好きであることによってどんな不都合が起きるのか?」が規制論の論点です。

逆にいえば「BL好きな女が問題を起こした」となると、規制に一歩近づくことになります。

だからこそ、晩婚化・少子化傾向が明らかになるとともに、ゲイコミュニティからクレームもついた1990年代に、BLの存在を疑問視する声(=事実上のBL不要論)が沸き起こったのです。

1970年代以来、女性は(今でいう)BLを読むことによって頭がおかしくなってしまったのではないか? 女のくせに子どもを産みたくないなんて?

それに新宿二丁目の連中を本気で怒らせたなら人権問題だぜ? 俺ら出版人としては「差別だ」と言われて「はい差別します」とは言えないだろ。もう発行しないほうがいいんじゃないか? 作家との契約を打ち切るか?……

それに対して栗本薫を筆頭とする『JUNE』系の作家が自己弁護したり、女性の自由には一家言あると自負するフェミニストが弁護を買って出たりしたのです。

ただし、ここでフェミニズム批評を採用してしまうと「確かにBLによって不都合が起きている」と認めたことになります。

「確かにBLを好む女性は、結婚生活に絶望しているので、少子化に拍車を掛けている。が、それはもともと男性中心社会が横暴だからである」ってのが、フェミの理屈です。

これは引っくり返すと「男性が横暴でなくなって、男女共同参画社会または女性中心社会が実現されれば、もう結婚生活に絶望することもなくなり、BLに逃避する必要もなくなるので、同人を廃業させることができます♪」になります。

したがいまして、フェミニズム批評的BL論は「フェミだけ得して、同人は損する」というものなので、同人とフェミは別なのです。

でも、ほんとうは、母親と喧嘩する人もしない人も、男性と交際する人もしない人も、結婚する人もしない人も、伝統的に女性らしいと思われる職業についている人も、男顔負けの職業についている人も、機会があって「BLって面白いな」と思えば読むし、面白くないわと思えば読まない。

その作品自体の出来という問題もありますね。絵柄や文体の好みの問題もあります。「エロは要らない」などという言葉もある通りで、BLだから何でも読むというわけでもない。

喧嘩した人・しなかった人、交際した人・しなかった人、少女漫画も読む人・読まない人……さまざまな対立項目を挙げて行けば、順列組み合わせによって、全部で何通りのBL読者が存在するはずになりますか?

多様性ってこういうことです。まだ冷戦体制から頭が抜け出せないのは誰ですか?

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。