1962年11月、小津安二郎『秋刀魚の味』松竹

  10, 2017 11:02
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せっかく育てたやつを、やっちゃうんだからなぁ。

脚本:野田高梧・小津安二郎 製作:山内静夫 撮影:厚田雄春 美術:浜田辰雄・荻原重夫 音楽:斉藤高順 録音:妹尾芳三郎 照明:石渡健蔵 編集:浜村義康 字幕意匠装画:橋本明治 美術工芸品考撰:岡村多聞堂・貴多川

昭和三十七年度芸術祭参加作品。天気晴朗なれども波高し。帝国海軍は負けました。トリスとジョニ赤と森永チョコレートを買って来たくなる映画。

我らが戦後。伸び行く工業力。文化住宅の窓から見える集合住宅。子どものようなオヤジたち。今度こそ若い奥さんもらえたんですか良かったですね(・∀・)

女たちはストレス溜めてます。でも家電製品の購入には主導権を握ってます(・∀・)

赤にこだわることは小早川家がその頂点だったようで、今回は青にシフトしてみたようです。笠智衆の哀愁によく似合います。

他人の世話ばかり焼いていた仲人オヤジの本音も漏れて、監督が自分の死期を悟っていたかのような穏やかな集大成ぶりに満ちております。

静物画の中で人物が動いてるような不思議な紙芝居感は最後まで健在でした。キャメラは一段と低いようで、もはや犬の眼というより猫の眼です。ごろにゃん。

テレビジョンは日本映画の父にとって「生涯の仇敵」といえる相手だったことと思われますが、一列に座って同じ方向を見上げる勤め人たちの姿を克明に撮ることによって、一矢報いたものでしょう。(画面に見とれる姿自体は映画観客も大差ないわけですけども)

小津は「時代劇やってみよう」とか「西洋劇の翻案やってみよう」とか思わなかったわけで、発想の根本が報道写真なんじゃないかと思います。昔ながらの生活と、世相の変化をドキュメンタリーのように記録することと、どっちにより興味があったかといえば、両方だったろうと思うのです。

古き良きバンカラ男だけの旧制同窓会は黒澤も撮ってましたが、やっぱり懐かしいのでしょう。

小津は男の世界と女の世界にハッキリ一線を引いた上で、自分にできるかぎり女心に寄り添ったつもりで撮り続けた、日本の男の優しさ代表みたいな人でしたが、娘を妻の代わりに家事をさせておくだけじゃもったいないからさっさと嫁にやってしまえという発想には、突っ込みどころはあります。

若い女を総合職に取り立ててやって、老父が体力の許す範囲で家事をしたらいいとか、この時代ならお手伝いさんを頼んでもいいし、お婿さんを取る案もあるし。

けれども、小津にとって、男親の子育てというのは娘を嫁に出してやって完成するのです。彼は鶴田を起用したモノクロ作品(たしか『お茶漬けの味』)以外には、若い男女が親しくなっていく様子を描いたことがなく、つねに家庭の中における父と娘なのです。

物語の主題は娘のロマンスではなく、父の人生観なのです。その背景には、ちゃんと亡き妻の面影があって「自分たちの結婚生活も良いものだったから娘にもその幸せを与えてやりたい」という、他家に行かせることによって親離れ子離れするようでありながら、微妙に自他不分明な感情移入があるのです。

そして、たぶん路子は「紀子三部作」を繰りかえすのです。

進んでいるようで変わらない、人生と命の輪廻。

岩下志麻はまだデビューしたばかりですが、演技にはすでに貫禄があります。笠と佐田がよく似ていて、ほんとうに親子みたいです。

高順音楽の無声映画的明るさと申しますか、変にスッポ抜けた高揚感も変わりませんでしたね。今回は終盤でたいへんいい仕事します。

劇中の移動手段は汽車じゃなくて電車になりましたっていうか地方ロケに行った木下とちがって、小津は東京方面だから、終戦後すぐから電車の登場が多いのです。

そして、小津先生、秋刀魚はいつ……?

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