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BLの本質と、手塚治虫『MW』の本質と、創作物一般に関する注意。

若者が酒場で年長の男性から一杯おごられて、ぼくにも運が向いてきたと感じる。

男性が読むと「なんでそうなるの」って思うわけですよね。これはゲイバーの話なのか?

でも女流の作者はそうではないという。男色小説などと呼ばないでほしいという。じゃあなんで男の子がそういうふうに思ってしまうのか?

女流の脳裏に「男の世界では、ストレート(異性愛者)が気まぐれを起こすことがある」という先入観があるからですね。

三島由紀夫や稲垣足穂に言わせりゃ「確かにありますね」となるでしょう。澁澤龍彦に言わせりゃ「古代ローマでは『真ん中のお人は倍に数えます』ということがあったね」となるでしょう。

ご維新から1945年8月15日正午に至るまで「お国のために産めよ増やせよ」という時代が長かったので、戦後は非生産的な恋愛・性愛を賛美することが今ふうでカッコいいと思われたのです。谷崎潤一郎『鍵』もその一種。子どもを作るつもりではない中年夫婦の交歓劇。

それが男性作家に流行したのが1950・60年代で、森茉莉はその渦中にあったわけですが、10年以上遅れて漫画として描いてみたのが二十四年組。間にあったのがヴィスコンティ映画(ついでにパゾリーニ映画)の公開。

で、小松左京は「お、俺にはないよ!」って言ったわけです。

手塚治虫は「古代希臘や羅馬はともかく、キリスト教国の男だったらもっと悩むはずだろ!?」って思ったのです。「女は世間知らずでリアリティがないから俺が描いてやる」ってね。

なお、寺山修司は世間知らずと言わずに「少女の内面表現」って言ったのです。けだし、詩人でした。

SFというのは、摩訶不思議な現象を「どうせおはなしだから何でもあり」というふうには済まさないで、太陽から何光年離れると、地表温度が何度下がるから、もしそういう惑星に生命がいるとすれば……という具合に数字の裏づけを求めるものです。

つまり、意外にリアリストなのです。

ただし、人生の途中で入信した日本人という設定にしてしまったので辻褄が合わなくなってしまったことと、森茉莉はまだしも竹宮恵子の時代には、1969年の「ストーンウォールの反乱」をはさんで、すでにゲイリブ運動が伸張していたのです。

後者の作品の成功に対抗したつもりで「若い頃に同性愛に染まった男が国家転覆を企て、シリアルキラーとなる」と描けば、クレームつくのです。

1982年に発行された佐伯彰一の対談書の中で、アメリカではゲイリブ運動がすでにロビー団体として効力を持っていることが報告されておりますし(『非行文化の時代』)、手塚なら1950年代以来の男性ファンがいるわけですから「先生がそういうお考えとは残念です」という声が届いたかもしれません。

作中に登場して「同性愛は無問題です」といったのが女性記者だったことと、実際にウーマンリブの時代だったことを考えると、レズビアンが抗議してきたのかもしれません。

いずれにしても手塚自身が「しまった」と思ったのでしょう。そっから先は、正義の味方が連続犯人を捕まえられるかどうかというアクションものになってしまったので、凶器を奪った時点で「勝ったぞ!」なのです。

その後の時代の作者・読者にとっては「もともと文学によって与えられた先入観を、創作上のステレオタイプとして繰り返すことは是か非か」という問題になります。

あえて例えれば「警察から情報提供を受けて事件解決する名探偵というのは本当にいるのか?」というのと同じ。

もし本当に民間の頭脳を借りなければ事件解決できないというなら、警察は国民から批判されてしまうでしょう。

だから「頭のいい人は実際にいるし、身上調査する探偵というのもいるが、警察の現場検証や捜査会議に同席し、情報提供を受けるということはない」と言わねばなりません。

そこで「な~~んだ。がっかり」というか、「だからこそ安心して、おはなしを楽しむことができる」というか?

後者を言えた時、創作ファン自身が「ひとつおとなになった」ということですね。

あとは、そのおとなになることを拒否して、実際のゲイバーや、実際の警察署に突入して「ほんとおにいるんですかあ~~!?」とやらかす世間知らずブリッコ(の中年)がいた時、どうするかという話です。

「二次創作は単なる金目だ。精神分析など必要ない」と割り切っているようなことを言うなら、次に必要なのは、実際の店舗で、実在の人々に対する礼儀をわきまえることです。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。