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Eテレにて能『求塚』

NHKで能『求塚』拝見できました。チャンネル権をくれた家族のみんな有難う~~

録画機材はCSの江戸川くんに占拠されました。能は一期一会(・∀・)

どこで書こうかと思ったけど前に能の話題をここで出したことあるし……興奮さめやらぬので箇条書き的に……

落ち着いたアナウンサーさん(石澤典夫氏)の話の振り方が良かったです。松岡先生のお話も分かりやすかったです。大人の男の時間がいいです。和服の“きれいどころ”とかフラワーアレンジメントとか要らんです。背景となっていた低い舞台がどこか気になりました。笹の葉と壁の板目がきれいでしたね。

観世能楽堂の虹梁には蟇股がふたつある、と(メモ) 青々と若い鏡松は枝ぶりが大きく二つに分かれており、「観・世の親子」をちょっと連想しました。

出演者は開いたくちが塞がらないほどの豪華メンバー。この十七日に収録だったと伺いましたが亀井先生がお元気で嬉しかったです。銀髪がまぶしい。すばらしい掛け声。これが聞きたかった。忠雄先生の掛け声は癖になると思ってます。鼓は作り物の陰からのせいか、曲なりにそういう音であるべきなのか、丸く籠もった音色がすてきでした。いや単にうちのテレビのせいかもしれません。源次郎先生もいい面構えになられましたね。

※ 歌舞伎役者は「仁左衛門」みたいに呼び捨てのほうが親愛の情が湧くのだけども能の先生には馴れ馴れしく先生とつけたくなる。

福王 茂十郎は初めて拝見できました。そもそも福王流を初めて拝見できました。生きててよかったです。NHKさんありがとう。福王の謡、いいですね。今更というべきか、かえって失礼なのか、体格もお顔もお声も素敵。自分が逝ったらあんなお僧に弔ってほしいです。化けて出ようかな。若草摘みの話に合わせたのか、緑色の水衣が鮮やかでした。

やわらかな笛が導くまだ雪の残る肌寒い早春の空気が心地良い。

シテツレのお二人が同じ(少なくともよく似た)朱色と白の段になった縫箔を着てるのが可愛くてたまらんでした。ふたご萌え♪ 歌舞伎の女形は足元をスッと見せますが、能の女性は水衣を着て丸っこいシルエットとなり、短足なのが可愛いです。中身はおっさん(失礼)と分かっていながら彼女たちが可愛く見えてきたらあなたも通(かもしれない)

お僧に「ここがどこだか分かってんなら訊くことないでしょ」というように突っ込む二人のハイトーンな謡が楽しかったです。“若い女性が坊さんをいじる”というのが前場にはよくありますが、当時の観客にとっていくらかエロティックな笑いを誘う部分だったのではないか、と思っています。滑稽劇だった頃の名残りなのかもしれません。

シテの気魄は最初からものすごく、全身がブルブル震えておりました。いい面だなと思っていたら(番組終了後の解説によると)ご流儀でもっとも大切な面だそうです。なにかと「失礼しました」と頭をさげたくなります。

カメラの撮る位置もよかったのでしょうが、お僧に向けてチラリと流し目したあたり、ぞくぞくしました。

うないちゃんは「少女」と書いて乙女ですが、元は万葉集にもある伝説だそうで、その頃の結婚適齢期というと十三歳から十六歳くらいでしょう。求婚者は「男」といわれると立派なますらおを想像しますが、彼らも未婚だっただろうことを考えると、十八歳くらいの血気盛んな頃、突っ走りやすいお年頃だったのでしょう。

ロミオとジュリエットの日本版のようなところもあるのかもしれません。そう考えると彼我の違いというか、仏教を取り入れたゆえの凄惨さ、女性としては「そこまで女の罪にしなくてもーー」となじりたくもなりますが(・∀・) それと早春の清冽な空気を対比させた劇作家の手腕の冴えを見よってところでしょう。

前場の詞章の優雅さは、なるほど世阿弥流で、それに比べりゃ確かに後場は書いた人が違うと思われるほど男前でした。うないちゃんに二人の男の霊が乗り移っちゃって男の声で謡ってる(には違いないんだけど)かと思いました。父ちゃん骨太。

“美少女の案内で地獄めぐり”という趣向はなんか外国にもあった気がする……などとも思われ、彼なりのエロスが籠められているにも違いないし、観客にとっては怖いもの見たさな部分もあったはずで、全体を悲哀感でまとめたのは世阿弥の手腕と趣味でしょうが、根っこには見る人を楽しませようというエンタメ魂、観客をわしづかみにしようという役者・脚本家の図太く熱い野心のようなものも感じます。

何を申し上げても僭越なんじゃないかと思われるのがこの世界ですが、ご宗家は芝居っけのある人で、能らしい暗さと重い緊張感、息づまる悲哀感の中にも、稲妻のように輝くハッキリと見分けやすい演技がさわやかでした。

前場のシテの語りは「乙女のありしに」と他人ごとのように始まったのに、途中でふいに「わらは」と主語を使ってしまう。静謐ながら、そこへ向けて盛り上がっていく。引き込まれました。

地謡も終始しずかに柔らかく物悲しく、「さし違へて」の部分だけがふと湧き上がった、地頭の力量なのだろうなと思いました。……地頭、いい男だったな……(脇正面からオペラグラスを使いたい人)

「よく知らないんですけど」と言ってからが長いアイ語り。東次郎の唇の色が美しかったです。谷崎潤一郎が書いたとおりです。長袴の裾も美しかった。さまざまに角度を変えて狙ったカメラ万歳。

カメラといえば、後場の冒頭、囃子方をアップで捉えたのにはドキッとしました。笛方をじっと動かずに映したのはブラボーでした。しっとりと胸をしめつける笛でしたね……

初めて拝見したので「太鼓つきかーー。途中ではっちゃけるのかな」ぐらいに思ってましたが、なんと贅沢な太鼓の使いっぷりでしょう( ゚д゚) 

ほんのわずかな舞の型が目にも心にも残りました。今更ですがご宗家の型は美しいです。鬘扇の骨の「黒」が効いてる、と初めて思いました。メタリックブルーに輝く求塚扇と渋い紫の色大口の対比が効果的でした。他の曲のときも思ったけどご宗家は色のセンスがいい。何を申し(ry

一貫して伏し目になってる霊女がまばたきしたり涙をたたえたり、わずかに生気をにじませて僧を見たりするようであるのも不思議なものです。声がお若く霊女にしては張りがあるので枯れてくるとまたいいかななどとまた僭越な。それまで自分が元気で生きてないと。生きがいをくれる能。

そして地謡は一度も(松風のようには)盛り上がることなく、解放感を表す明るい舞が舞われることもなく、そのまま帰っちゃうのかい!? と思ったら本当に帰っちゃいました。しかも彼女、暗闇のなかで塚を探して歩くんだから、あれを自分の「すみか」だと思ってるわけです。

男たちも自分の罪を悟ってさし違えたはずなのに、あの世でまだ彼女を争っているのだから、本来の自分の心を忘れて彼女を責めるための鬼になりさがってるわけです。

でも彼女は其処へ戻る。いつすすがれるか分からない前世の罪を背負って。よろよろと、しかし一心に。悲しい……。というか何しに出てきたんだ、お僧……

これは確かにシテにとっても地謡にとっても難しい曲で、しかも登場人物が多い、異様な豪華さを備えた地味な曲という。たぶん滅多に出る曲ではないでしょう。ご宗家の意気込み。

番組終了後の解説コーナーでは、ご宗家がはっちゃけてましたね。面白すぎます。能楽堂の敷居をけずるカンナを一気に五往復くらいさせた気がします。

僭越ながら彼が「我々の世界にはエンタメが足りない」って言ったのは納得で、面白くしたい! というアイディアとやる気が充満しているとお見受けいたします。今日の舞台にも俗っぽくする・リアリティ重視で分かりやすくするというのとはまた違った意味で「面白くやる」という気持ちが溢れていたように思います。たぶん、世阿弥の精神の正当な継承者なのでしょう。

それにしてもまさかご宗家に「チケットどこで売ってますか」って訊く人いるの。ぴあで売ってます。観世能楽堂は渋谷の奥にあります。場所的にアクセスしやすいのは水道橋の宝生能楽堂(JR駅至近)で、どちらもふつうに洋服着ていって大丈夫です。ご宗家の意気込みに応えて、Let's お能。


追記:後見の祥六先生が立ち上がるたびに心中で「がんばれーー」と応援。グランシップで拝見した『砧』のお仕舞、すばらしかったです。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。