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【二丁目からのクレームは文字通りに読まないほうが良かったと思う】

あえて20年前のクレームについて考えてみる。

二丁目からフェミニズムへ、「やおいには困りものだ」という苦情が入ったなら、フェミニズム論者を女性一般のリーダー格と認め、頼ってきたということだったと思う。

本当は彼らも「やおい」という言葉を使わなければ良かったのだろうと思う。

彼らの真意は「一部の創作物に表現されているのと同根の、差別意識に基づいて、二丁目で我がもの顔に振舞うストレート女性がいるから、フェミニズムの姉貴たちから自粛を呼びかけてくれ」ということだったはずだ。

が、クレームというのは、発したほうも自分の意図が要約できていないことがある。(会田誠展の時のもひどかった)

うっかり「やおい」という言葉を使ったがために、「読んだ・読まない」へ論点がすり替わったのは、彼らの本意ではなかっただろう。

【プロはやおいではないんだ】

繰り返すが、プロ作家たる者、「山も落ちもない下らない作品を仰々しく上梓して、皆様の大事なお嬢様に読ませ、保護者である皆様から金を取りますわよ」というわけにはいかない。

読者が「少女」である以上、その小遣いの出どころは保護者であるから、子供向け創作物の販売とは、じつは「成人作家 対 成人保護者」の取引である。

だから企業を通じて漫画単行本やハードカバー小説を出版した作家たちは、やおいではない。彼女たち自身も、出版社も、絶対に「我(彼女)こそはやおいなり」と認めるわけにはいかない。

逆に言えば、やおいという言葉は、いわく言いがたい二次創作の存在を暗示する隠語だ。山も落ちもないというその言葉自体に、じつは明示的な意味はない。

「貴女の作品はどのようなものですか」と訊けば、「うちはやおいです」と答える。意味するところは、特殊な性を描いた二次創作だ。お呼びでないと思った客は、他を当たる。そのように便利な符牒であり、女性存在ではなく、作品のカテゴリ分類を表す名称である。

「二次創作である」ことに言及しにくかったので、「男子同性愛である」ことのほうに批評の力点が置かれたことが、話をややこしくしたかと思う。

【いろいろなお客さんがいただろう】

その男子同性愛に(娯楽消費的な)興味をもって、二丁目を訪れた女性は、はとバスに乗っただけかもしれないし、『笑っていいとも!』を見たのかもしれない。

「ゲイは男心も女心も理解できるから、人生相談に乗ってくれるよ」という、一見マイノリティの理解者のごとき言説が流布されたのは、いつからだったろうか。1990年代のテレビバラエティによってだったような気もする。

テレビ芸能人によって「ゲイバーで遊ぶのはオシャレ」というイメージが作られたのではなかったか。

1992年以降なら『セーラームーン』や『クレヨンしんちゃん』(映画版)で「おかま魔女」を見たのかもしれない。化粧をし、女言葉でしゃべる彼らは、健全な男女の(未来の)家庭をおびやかす侵略者とされた。

あるいは書店でゲイ雑誌を発見し、飲食店やイベントの広告を見て、直接アクセスしたのかもしれない。

アニメ『おじゃる丸』には、フェミニンなワンピースを着用して、常にスケッチブックを抱えた女性が登場するが、そのような成りで二丁目まで押しかけたものか。

基本的に、二次創作は即売会でのみ流通される約束で、かろうじて存在を許されているようなものだ。

つまり、自分から即売会以外の世界へ乗り込んで「わたし、やおいちゃんです」と名乗る人もいなさそうなものだ。もし自己紹介するとして「同人です」くらいが適当かと思うが、いかがなものか。

二丁目を訪れるストレート女性の内訳を確認することなく、ゲイ文化またはゲイ男性という存在そのものに娯楽消費的興味を持つ女性存在全体をひっくるめて、「やおいというカテゴリに属する二次創作物を制作する女性漫画同人」に代表させたのだが、……

かえって事情通な人々によって、その名は「創作物のカテゴリを表す名称」という本来の意味に受け取られ、読んだ・読まないという騒ぎになり、話のテーマがずれたのだった。

【要求の真意】

もし「テレビでミスターレディを見て探しにきただけで、アニメおたくではない女性客」は、いずれも非常に行儀がよく、無礼の全てが、二次創作マンガ・ラノベ同人の仕業であったならば、クレーム文書の送付先は、同人誌即売会の主宰者でもよかったし、出版社・印刷所などへ注意を促すという形でもよかった。

そう考えると、彼らの要求は、創作自体の禁止や、出版の差し止めを求めるというようなことではない。

百歩譲って描いてもいいが、「差別を助長する表現は取り下げてくれ」と「とにかく二丁目で騒がないでくれ」の二点だ。

であれば、投書先を全国新聞に選んで「僕らの生活域で騒ぐストレート女性がいるので困ります」「すみやかに人権教育を徹底してください」という一般論にしてもよかった。

おそらく、先々のことまで考えれば、招かざる客に迷惑もすれば腹も立てる当たり前の人間であるゲイという存在を一般に認識してもらい、問題意識を共有してもらうためには、そのほうが良かった。

しかし、二丁目というところも、法律によって彼らだけに許可された特例区というわけでもないから、彼らとしても広く国民・都民へ訴えることができない。「お前らこそ出て行け」という話になる恐れさえある。

クレームを発した時点で、一般社会が自分たちの訴えに耳を傾けてくれるとは思えなかったのだろう。彼らとしても、記者会見を開く・法廷へ持ち込むなど、事を荒立てることを避けたのだ。

そこで、「姐さん達のちからでなんとか」と、フェミニズムを頼ったのだ。

彼らの口調は辛辣だが、それはもちろん彼らの言うに言われぬ悔しさ・悲しさを表している。

男の友情に憧れるなら、この機微は分かってやるべきだった。

【総人口の半分は女性である】

全女性とゲイ男性が糾合すれば、ストレート男性人口をしのぐことができる。つまり、多数決で勝てる。

互いに事を構えるべきではなく、ことに組織力においてゲイリブよりも先んじていたフェミニズムは、マイノリティ主導の社会実現に向けて、戦略的に対応すべきだった。

「男のくせに読んだの!? やだァ~~」という小学生レベルの脊髄反射しかできなかったのであれば、かえすがえすも残念だ。




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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。