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【やおい論の禍根。】

「私がこんなふうになってしまったのは、お母さんのせいだ。だって、BLは家庭不和に悩む女の子が『はまる』分野だもの」

いまだにこのように思い込む女性を生んだことが、かつての「やおい論」の残した禍根ではないかと思っている。

さまざまな徴候からして、二次創作BLというのは、意気盛んな女子学生または女子高生の間から、男子学生の一部を夢中にさせる「男のロマン」へ切り返すジョークとして始まった。

小説や漫画を自分で書いてみようと思うほどの人は「漢字が苦手」「じっと座っているのが苦手」というタイプではない。どちらかといえば、優等生のはずだ。

それが舌鋒鋭いところを披露したというわけだが、だからといって、その背景に残酷な成育史を設定する必要はない。

女子学生たるもの、せっかく進学したのだから「早く地元へ帰って、お嫁さんになりたいわ。その後は新刊書も購入せず、コンサートへも海外へも行かないのよ」とは言うまい。

医師免許・教員免許・学芸員資格・国家公務員・研究職……さまざまな夢を抱き、都会における自立・栄達を求めていただろう。ロールモデルとしては赤松良子氏がいたと言えばいいと思う。

「卒業後は社会に出て、バリバリ働くわ」という、その期間は25歳までだったか、30歳までだったか、時代により、個人により違っただろうが、ともかく「当面の間は、お母さんのような、ただの主婦にはならない」という覚悟と自負があっただろう。

だからといって、母親から虐待を受け、家庭不和を生じ、実家を飛び出してきたとは限らない。多くが、学費と下宿費を保護者に負担してもらっていただろう。

そもそも母親の「私は無理だったけど、あんたは女一人で頑張りなさい」という理解の元に上京してきたかもしれないし、夏休みには実家へ帰って先祖の墓に手を合わせただろうし、高校生であれば、即売会の朝には母親の支度してくれた朝ご飯を食べ、小遣いをもらって、「行ってきま~~す」と言っただろう。

思うに、ゲイフォビアと、1980年代の「荒れる中高生」という印象に大人のほうが心急かされて、「容易ならざる心の闇をかかえた少女たち」というイメージが描かれた。

それが「産まない性に感情移入している」といった式の分析を生んだ。

そこからは、自信を喪失した哀れな姿が浮かんでくるが、実像とは乖離している。

実像は(人にもよるが)愛らしいドレスを流行させ、みずから印刷所と交渉し、大胆にもフルカラー同人誌を生んでいった。

いわゆる普通のOLさんらしい身なりとは、もっと乖離している。

二次創作者、なかんずく官能作品の作者は、表立って活動しない。公表を前提にインタビューに応じたり、数万件のアンケート回収に協力を約束してくれることも少ない。代表機関のようなものも存在しない。

まがりなりにも社会学者を名のる人々が、本来の分析手法を適用せず、漏れ聞こえてくる憶測を基に、あらぬ「論」を展開したことは、日本の社会学・フェミニズム、ひいてはアカデミズムの信用を失墜させたんじゃないか。

今でもちょっと、そのように危惧している。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。