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【やおいはトランスゲイではないことは再三確認したい。】

情報の少なかった時代に榊原さんが勘違いしたのは仕方がないんだけれども、松岡正剛氏のサイトで「やおいとはトランスゲイである」旨、上書きされてしまっている。(『千夜千冊』やおい幻論の項。)

彼も書評として、元の本に書いてあった内容をまとめただけなんだけれども、彼のネームバリューから言って、熱心にサイトを訪れる読者の中に「ほう、そうだったのか」と勘違いが再生産されてしまう恐れはあると思う。

黒バス犯のせいで「二次創作BL」という言葉を生まれて初めて知り、なんじゃそりゃと検索をかけてみた中高年もいるだろう。

(昔は「お母さんに説明しても分からないんだから黙ってて」とうそぶくことができたが、つい最近まで現役だった今どきの中高年は、PC検索を使いこなす。)

芋づる式に“やおい”という言葉に辿りつかない保障は……ない。

最近はその言葉がもはや流行せず、意味が通じなくなったからこそ、検索してみるという人もあるだろう。

とはいえ、松岡氏には書評を発表する権利があるから、記事を取り下げろとは言わない。

そこで、横合いから注意を喚起しておこうと思う次第だ。

若い女性の中に「私って二次創作BLが好きだからゲイかも。二丁目に住んじゃうかも~~」って言っちゃう人が出てくると困る。

「自分もゲイだから」というつもりで、二丁目で寛ぐ男性に赤裸々なガールズトークを仕掛けるようだと困る。(本人だけボーイズトークのつもり。)

LGBTプライドイベントに参加する人をつかまえて「あなたも“やおい”ですか!? 同人作家では誰が好きですか!?」と質問する人が出てくるようだと困る。

トランスというのは「可愛い顔してるくせに男になりたい女の子」ではない。「スカートの苦手な活発な女の子」ではない。

トランスFtoMとは「まさに男である」という自認の人々だ。宝塚式に装う人もいるが、もっと男らしく、髪を五分刈りにして、一日も早く無精髭が生えることを望む人もある。

田村俊子そこのけの文体で小説をつづり、少女漫画調・レディコミ調の表紙画を掲げて喜んでいた耽美派、JUNE派、やおいと呼ばれたパロディ派は、どうにも彼らの仲間ではない。

まがりなりにも全国流通を意図した書籍上で「私はトランスゲイかもです」と言った以上、カミングアウトしたということであり、もはや「トランスゲイとして生きることが難しいので、隠れて生きる方便として耽美小説を書く」という生き方はできない。差別撤廃を訴える中心人物となる他ないはずだ。

また、その文章を読んだ人々の間から「よくぞ言ってくれた」という投書が殺到し、社会問題として新聞に取り上げられる……という方向へ進むのが本当だ。

そういうことは、起きなかった。

起きたことは「くさっても女子」であることを主張する、新しい名称の流行だった。

(※ 個人的には、こちらも非推奨だ。すでに仲間うちでだけ通用する気の利いた韜晦ではなく、女性が公開で自分を傷つける見世物と化している気がする。)


話を戻すと、たとえば殺人犯の不幸な前半生を描いたドラマに共感したからと言って、自分も殺人犯になる必要はないし、小児科医師の現場の苦労を描いたドラマに感動したからと言って、その人が現在ただいま小児科医師であるとは限らない。

創作物は、もともと読者が感情移入しやすいように、うまいこと書かれているものだ。逆にいうと、うまいこと感情移入できるように書かれたものの評価が高い。

おそらく、勘違いの生じた根本的な理由は、1980年~1990年代、そのような「創作物とは何か」という文学論的なことの理解が、創作者自身に行き渡っていなかったことにある。

理論を勉強することなく、編集者に鍛えられることなく、見よう見真似で書き方を覚えた人がデビューできるようになったことが、混乱を生んだのだろう。

「女性的な風貌を持つ男性同士の出会いから恋の成就、または永の別れまでを描くエロス文芸」という定型が、すでに確立されており、それを模倣するだけで誰でも書き上げることができたという、まさにその体制によってこそ、勘違いが発生したという皮肉だ。

これへ本来、商売柄が違い、日ごろ創作物をあつかい慣れない社会学者が議論に参戦したことが混乱に拍車を掛けた。

最近は二次創作BLという言葉が通用しているので、二次創作BLファン、またはより一般化して「BLファン」で良いだろうと思う。

(※ 当ブログのボーイズラブ論の趣旨は「プロ作家の作品を解説するに“やおい”という単語を使うのは不適切だと主張するにある。)


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。