『経営者・平清盛の失敗 会計士が書いた歴史と経済の教科書』 山田 真哉

  19, 2012 01:05
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面白かった!(*´∀`*)

タイトルが「清盛の成功の秘密」ではなく「失敗」であるところがニクイ。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の歴史学科出身の会計士さんが書いた、清盛の経済政策。その先見性、本質的にはらんでいた矛盾、それによる栄達と滅亡。

「モノ」の価値は、それを使う文化によって変わる。

政治権力の駆け引きを叙述する歴史観だけでは説明しきれない藪の中へ会計士の足で踏み入って、キラキラ光る玉を拾い上げ、「ほら」って見せてくれた感じ。

文章は「ですます調」で柔らかく、語り口は軽妙で、非常に読みやすい。一般向け生涯学習企画って感じだ。ソフトカバーで持ちやすく、表紙と章ごとの扉に例の平家の蝶紋が印刷されているのも目に嬉しい。楽しく一気読みできた。

清盛は日宋貿易で巨万の富を得たといわれる。教科書にも書いてある。テレビでも言ってる。みんな信じてる。
でもちょっと待て。なぜ貿易するともうかるのか? 彼はどこから中間マージンを得たのか? また、それは何によって支払われたのか? コメか? 農作物は長期保管=蓄財に向かない。

清盛は宋銭を導入して日本を貨幣経済に導いたといわれる。

でも外国貨幣っていきなり流通するか? 例えば硫黄を売った代金を宋人が「これでいい?」と宋銭で支払おうとした時、日本人が「いらないそんな汚い色の金属板。もっときれいなモノをちょうだい絹とか翡翠とか」って言ったら? あるいは例えば和同開珎が流通している国で他の通貨を「これで払える?」と見せたら? お店のご主人こまるでしょう。怒るかもしれない。

それとも既に日本に宋銭の流通する貨幣経済が成立していたというのか? 話がニワトリが先かタマゴが先かみたいになってないか?

そしてなぜ平家はその巨万の富を使って敵を懐柔する・兵員や物資を集めるなどして、戦争に勝つことができなかったのか? ふつう、金が続いたほうが勝つものだ……

当然の前提とされているものを問い返し、「なぜ?なぜ?なぜ?」とたたみかけ、読者がタジタジとなった辺りで「いいかい?」と、オセロの駒のようにパタンと世界観をひっくり返してみせる。貨幣を貨幣だと思うからいけない。

「モノ」の意味合い・価値づけは、それを使う文化で決まる。川勝平太もいった通りだ。

南宋では「貨幣」だった小さな丸い銅板は、日本では「銅そのもの」、手工芸品の素材として、ある勢力から非常に求められた。

交換価値を保障してくれる勢力があるなら、他の人へ物品や労働力の対価としてこの金属板を支払い、「あっちへ持っていけば、あんたの欲しい絹や米と交換してくれるよ」と教えてやればいい。
清盛はそのようにして、意図的に宋銭を決済の手段として用い、半強制的に(しかし要領よく)流通させた。

ブログ主はここんとこ「大輪田泊などの改修工事の人足に支払った給料は何だったのか、古代ローマじゃあるまいし、塩ってこともないだろう、まさか一日に『米をひと枡」』とか?」と気になっていた。
また、黄金は主要な輸出品だったが、その見返りが白磁器で、自宅で使う(福原の居住地跡から大量出土した)だけでは儲けにならない。赤字貿易だ、と気になっていた。それらの疑問が氷解した。

つまり、黄金を売って銅を買い、その銅を国内でコメに代わる決済手段とした。中納言・大納言時代には、行政官としては大したことをしていない清盛だが、ここで確実に社会変革を起こしている。

しかし銅銭の普及は、農本主義の荘園領主たちをおびやかした。彼らが決済手段としてきたコメや布帛がそれ自体では意味を失ったからだ……

清盛の人間性の特異さ・傑出ぶりをあくまでベースとして、当時ならではの迷信気味な信仰心が舶来品に独自の価値を認めていたこと・日宋貿易が季節風の風向きに支配されていたこと・当時世界的に襲った気候の寒冷化を視野に取り込み、物価の急激な上下動による平家の栄達から滅亡までを一気に説き明かすのは雄大で、爽快だ。読んどいて良かったブローデルって気分にもなる。

富士川の合戦に、なぜ平家は人員をそろえることができなかったのか。そのわけを解明することは哀れを誘うが、しかし逆に、治承・寿永の乱を通じて、兵力が少なかったにもかかわらず、源氏がたを何度も敗走させた平家の武士としての底力、勇猛果敢さを明かすことでもある。ちょっと身震いが出る感じ。

そして歴史に「if」はないといいながら、もし平家の経済力に影がささず、政権を維持できたら、日本が海運業でアジアに雄飛する通商国家として世界史に登場していたら、いろいろな価値観やその後の歴史がずいぶん変わっていたであろうと空想することは、とうぜん、現代の問い直しともなる。

たまに図書館へ行くと、いいことがあるものです。
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