【歌は下手でもセクシーなドレス着てと言われたら。】

  16, 2014 13:30
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成田美名子の漫画作品『花よりも花の如く』に、女性ジャズシンガー(の卵)がライブ店から「歌は下手でもいいからセクシーなドレスを着て出演して」と言われて傷ついた……と苦衷を打ち明ける場面がある。

主人公の能楽男子は、読者のほとんどである一般女性の心理を背負っているから「あ、女性は社会に出るとセクハラされてしまうから大変なんだな」というふうに反応する。

でも、彼も似たようなことを言われる可能性はある。

「紋服を着て座っていれば能楽師に見えるので、とりあえず黙ってテレビに出てください」

歌が上手ならセクシーなドレスを着なくて良いわけではない。

オペラ・ディーヴァは胸の開いたドレスを着る。レディ・ガガは世界中から下着姿に相当する衣装を見られている。浜崎アユミは胴回りの太さを問題視される。

男性ジャズシンガーなら、ディノはタキシード、マット・ダスクはスリーピース・スーツで決める。

「歌が下手でも、とりあえずスーツ着てきて。女性客が喜ぶから」

……と言われたら、パフォーマーたる者、反応しなければならないのは発言の前半のほうだ。

「君の歌唱力では雇えない」「芸が未熟なくせにステージへ上がりたがるとは僭越だ」と言われているのだ。切腹したくなるくらい恥じてよい。

「それなら単に不採用と言ってほしかった」「見た目の性的な魅力に言及するのは嫌がらせだ」とか言ってる場合ではない。

ドレスまたはスーツを着ると見栄えがすると言われたということは、スターの座への第一関門を抜けたということだ。精を出してボイストレーニングに通うといい。

オペラ歌手も、デル・モナコやドミンゴのように顔立ちが整っており、ラテンな色気を帯びた男に人気がある。

能楽師でさえ、顔の良い若手に人気がある。(本当だ)

ニューウェイブ三味線の上妻も、見た目は重要だ。

観客は「天は二物を与え給う」という奇跡に酔う。

ポール・ポットのような例は、ふつうにオーディションを受けても通らない個性が、喉自慢だけで突出できる機会があって良かったねってことで、観客には「一発逆転」という小さな奇跡に参与する喜びを与える。

漫画は、一般人が読むものなので、その心理に寄り添う必要があり、演技の専門家の非常識な覚悟を描けるようで描けないのだ。

これがフィクションとドキュメンタリーの決定的な違いだろうと思う。



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